KenzOasis

アラビアのロレンス/完全版のKenzOasisのレビュー・感想・評価

4.5
3時間47分は確かにすごいボリュームだが、紛うことなき超大作にして名作であることは間違いない……。とんでもないものを観た。礎。
監督、脚本、撮影、音楽、美術、キャスト。ありとあらゆる傑物がそろってないとこんなの作れないよね。

オスマン=トルコからの、アラブ人たちの独立に奮闘したロレンスの物語。そういうといかにも英雄の物語だけど、そうはいかないのがこの映画を不朽のものにしている。

有名な「マッチを吹き消すと夕焼けの砂漠のシーンにうつる」はもちろん素晴らしかったけど、個人的には多用される芸術的な砂漠のロングショットが大好物だ。特に、夜の砂漠へ歩み出すロレンスの後ろ姿と、それ越しの砂漠の稜線と踊る砂塵のショットの美しさたるや。

その後の、落ラクダしたガシムを探しにいったロレンスを待つダウドを写したカットも、シンプルだけど猛烈に好きだな。この時にある、太陽が輝きはじめ、夜の名残りと混ざりそうな瞬間と、すぐにジリついて灼熱になっていくカットもかっこいいし、地平線と夕陽と、孤独なシルエットだけのシーンも。地獄のような砂漠だけがもつ唯一無二の美しさを見事に捉えていると思う。

忘れられないシーンが豊作すぎるんです。

物語もとてつもないドラマをもっており、命懸けで誰かを助けるような人物であったロレンスの心は、過酷な砂漠の環境+過酷な戦況+民族の深い溝に次第に潰れながらすり減っていく。言葉や行動の変化の大きさで人々を戸惑わせる姿はあまりにも悲しい。

蜃気楼の向こうから現れたアリに啖呵をきり、確かな覚悟で皆を導いて信頼されたロレンスが、祖国の三枚舌外交とアラブの民たちの強烈な感情と民族性の板挟みのなかで、戦争を通して血にまみれながら空虚に沈んでいくのだ。

史実に基づいた本作の中に「砂漠はどんな血もすぐに乾かしてしまう」という印象的なセリフがある。その実、この出来事もありとあらゆる死も、あっという間に乾ききり、中東問題という砂漠だけが今も残っている。

思わず「何がグレートブリテンだ馬鹿野郎」と言いたくなるような、ピカイチの後味の悪さを残すものすごいパワーが、この映画にはあった。
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