MASH

宇宙戦争のMASHのレビュー・感想・評価

宇宙戦争(1953年製作の映画)
3.5
僕が50年代のSF映画に期待することといえば、チープだが迫力のある特殊効果くらいなものだ。しかし、意外なことに『宇宙戦争』は現代のSF映画とも引けを取らないというか、そもそもちょっと違う観点から描かれた作品なのだ。

オープニングからして、この作品をただの娯楽作品にはしないという強い意志が感じられる。第一次、第二次世界大戦の映像が流れ、その後に『THE WAR OF THE WORLDS』とタイトルが出る。つまり、この映画は戦争映画の側面が大きいということだ。現に最初の方は小さな街での出来事として始まるが、中盤から軍隊が出てきたり挙げ句の果てには原爆まで出てくる。それも火星人がやってくるというプロットからは考えられないほど、現実に近いシリアスな問題として描かれているのだ。そういう部分では1954年の『ゴジラ』にも似ていると言える。また、宇宙から敵が来たことによって世界中の国々が手を結ぶことになるという皮肉な展開は『ウォッチメン』などに影響を与えているのだろう。

そして、この映画の最大の特徴はその終わり方にある。この映画には人間と科学と宗教という三本の柱が存在する。最初の方で牧師が宇宙人と話し合おうとするが殺されてしまうことで、宗教ではどうにもならない状況であることを人は悟り、宇宙人に対し科学の力で応戦しようとする。だが宇宙人の前では完全に無力であると知ったとき、人々は抵抗をやめ神に助けを求めるのだ。その結果どうなったのか。具体的には書かないでおくが、宗教と科学、そしてその間に立たされた人間という存在を見事に表したラストとなっている。その三本の柱はさらに大きな力によって支えられているのだという、科学と宗教の行き着く先が同じであることを示しているようにも感じた。

これだけ熱く語っておいてなんだが、正直面白い映画かと聞かれるとそうでもなかった(あくまで僕にとってはだが)。今見るとチープだがそれでいて非常に派手かつ独創的で楽しい特撮でありながら、何故かあまり盛り上がらない。非常に大きい視点を持ったテーマ性とその良い意味で作り物めいた特撮は、どこか相性が良くないように感じてしまったのだ。お互いの良さを薄めてしまっているような。また、少し群衆劇的な側面もあるためキャラクターに魅力を感じれない。90分もない映画の中で、実際に宇宙人が来たらというシミュレーション的な要素、派手な特撮、壮大なテーマを押し込んでいるのだから、キャラを魅力的に描き切る余裕がないのはしょうがないと言えばしょうがない。ただ、やっぱりそうなると最後のシーンでの主人公の感情に入り込めなくなってしまっている。

この作品は有名な事件を起こしたラジオドラマがベースとなっている。あまりの作り込みに聴衆が本当に宇宙人が来たと思いパニックになったという。それが嘘か実かは定かではないが、このラジオが放送された1938年は第二次世界大戦が開戦する間近だったことが強く関係しているのは確かだろう。それほどまでに国民の間に緊張感が高まっていたのだ。ラジオから流れるものがフィクションかどうかも分からなくなるほどに。その恐怖こそが『宇宙戦争』の根幹にあるものだろう。もちろん今もSFを真剣に捉えた作品は数多くあるが、これほどまでに宇宙人による侵略というものをシリアスに描いた作品はあまりないのではないだろうか。好みは分かれるだろうが、今と昔の宇宙人へ考え方の違いがわかるという意味では観る価値ありの作品。
MASH

MASH