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ロルナの祈りのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ロルナの祈り(2008年製作の映画)
3.8
 アルバニアからベルギーへ渡ったロルナ(アルタ・ドブロシ)は、ブローカーのファビオ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)の手引きで、麻薬中毒のベルギー人クローディ(ジェレミー・レニエ)と偽装結婚する。ロルナも、同郷の恋人ソコルとバーを開くという夢のため計画に乗るが、クローディと暮らすうちに罪の意識が芽生える。今作でもブルジョワジーなど一人も登場せず、社会の底辺に生きる登場人物たちをひたすら描く。主人公の夫はヤク中で仕事などとても出来る状態ではなく、主人公に依存して生きている。何かにつけてすぐに電話をしてきたり、翌朝早いにも関わらずトランプ遊びを求めてきたり、ヤク中らしく情緒不安定でその行動には一切の理性がない。完全に子供である。そんな様子を目にしても、彼女は新たな偽装結婚のためにブローカーと結託し黙々と準備を進めている。彼女の行動は常にブローカーによって監視され、自由を奪われている。犯罪の片棒を担いだ手前、逃げることも出来ずそこに主人公の意思などない。思えば前作『ある子供』でも、一度は人身売買が成立したがそれをキャンセルしたことが原因で、主人公は組織にペナルティを課され追われる身となる。そういう逃げ場のない状況に主人公を追い込むことでドラマを生み出す。

 それでも同郷の恋人ソコルとの淡い思いだけが彼女を動かす原動力になる。ヤク中のクローディともブローカーとも違う彼との平穏な時間だけが主人公にとって救いになっている。『ロゼッタ』においては主人公は成人には程遠い思春期の少女だった。『息子のまなざし』では11歳で罪を犯し、5年間服役した少年という設定だから、16歳の少年ということになろう。『ある子供』でも若いカップルはおそらく18,9だったと思われる。これまでのダルデンヌ作品は成人に満たない彼ら彼女らの目を通して、ベルギーの労働問題や社会問題に触れることに大きな意味があった。それが今作では一転して子供の姿がどこにも出てこない。唯一想像妊娠した主人公が、妄想に取り憑かれた状態で赤ん坊の夢を見るが、結局は赤ん坊はいないとばっさり切り捨てられる。今作に出てくる登場人物たちは全員が立派な大人であり、大人が犯罪に手を染め、ドラッグ中毒になったりしている。ラストに流れるベートーヴェンのクラシック音楽からも、ダルデンヌ兄弟の変化は十分すぎるくらい伝わるのだが、果たして進化なのか退化なのかの判断は人によってまちまちだろう。だが35mmフィルムからデジタルへの変化はダルデンヌ兄弟のフィルモグラフィの重要な転換点となっている。
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