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白夜 4K レストア版のSariのレビュー・感想・評価

白夜 4K レストア版(1971年製作の映画)
5.0
原作であるドストエフスキーの短編小説の映画化作品。
原題は『Quatre Nuits d'un rêveur(夢想家の四夜)』小説では19世紀のロシア・ペテルブルクであった舞台を、撮影当時の現代のパリに移して脚色。
原作と同じく四夜にわたり、若い男女ジャックとマルトの出会いを見つめた純愛物語。

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物語は、ヒッチハイクで郊外からパリに戻ってきたジャックが、その夜ポンヌフ橋からセーヌに身を投じようとしている美しい女性マルトを見つけて止まらせ、明日再び同じ時間に会う約束をする。

四夜にわたる物語は、ジャックとマルトそれぞれの回想を挟む七章に区切られた構成と、83分という長さに収められた、とてもミニマムで単純なストーリーである。

ブレッソンの例によっての拘りである、演技経験のない素人(モデル)を起用し、少ない台詞、動作、生活音という極限まで抑えられた演出で成り立つ。歩く靴の音、カメラのシャッター音、劇中の活劇シーンの音と、耳に入ってくる音響の小気味よさ。しかし、音楽をほとんど用いないブレッソンには珍しく、バンドの音楽が印象深い。セーヌ河を滑る観光船のバトームーシュや、路上で弾き語りをするブラジル系バンドの奏でるボサノバ音楽が彩りを与え、彼の厳格な作風の中で本作は、一際軽やかと言えるのではないか。

35㎜フィルムで撮影された、漆黒のセーヌ河の水面に反射する街灯の暖色の揺らぎや、マルトの羽織る黒いマントに映える赤いスカート、赤いスカーフなどの色彩の芳醇なまでの美しさ。ポンヌフの夜をこれほど美しく撮らえた作品を他には知らない。あの『ポンヌフの恋人』の20年前である。昼間のシーンも、ブレッソンの特徴である深い青緑を貴重とした寒色が美しい。

ほんの数年前まで、ブレッソンの幻の傑作として、観るのが難しい映画であった。どうしても観たくて高額なソフトを入手して初見。ついにスクリーンで観れた、至福の映画体験は静かな感動で涙が溢れた。本作品は、ブレッソン映画で一番の傑作とまでは言えないかも知れないが、ブレッソンの映画に対して言葉が無力であるかのように、文字に表すことが勿体ないとさえ思える。大切に取っておきたい映画のひとつであると、4年ぶりの再見で実感。本作品は、特に、アキ・カウリスマキ監督の諸作品への影響を強く感じさせる。

2025/04/05 ナゴヤキネマ・ノイ
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