Sari

バッドランズ/地獄の逃避行のSariのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

テレンス・マリック監督の長編初監督作。

1950年代末にアメリカで実際に起きた連続殺人事件を題材に、無計画な犯罪を重ねる若い男女の逃避行を、鮮烈かつ詩情ゆたかな映像で描きだす。

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以前「地獄の逃避行」というタイトルでテレビ放映されたことがあるらしいが、今回は原題通りのタイトルで日本では劇場初公開。

50年代に実際にあった10代のチャールズ・スタークウェザーとキャロル・フガーテが引き起こした、『俺たちに明日はない』(1967)のボニーとクライドを彷彿とさせる事件をもとにした、不良少年とあどけない少女の物語。

マーティン・シーンは30代初めだがずっと若く野性的に見え、ジェームズ・ディーン気取りのアウトローに自分を重ね合わせて目的もなく疎外感に駆られた中西部の落ちこぼれを好演。また、無表情のそばかす顔をしたニンフ的な少女を演じるシシー・スペイセクは当時24歳だったが、15歳で十分通用する。

マーティン・シーンがシシー・スペイセクの厳しい父親(ウォーレン・オーツ)を殺したことから始まる逃亡劇で、綿畑の木立ちに愛の巣をつくること、連続殺人を繰り返しながら逃避行の旅を続けるところなども、ボニーとクライドを彷彿とさせる。

とてつもない暴力的な側面を持つロードムービーだが、映像美の揺れ動く歪みの中に
ある感覚に気が付かされる怖さと言うのか。いわゆるニューシネマ時代の粗暴なイメージとは一線を画す何とも寒々とした恐ろしさを感じるのは、一見普通の少女が、他に考えがないという理由からサイコパスと行動を共にしてしまうところで、マリックの巧みな脚本が、暴力的な心理ドラマながら冷静に距離感を保っていることも頭脳的である。
スペイセクがロマンティックだが陳腐な日記を読む形でのボイスオーバー(彼女が読む50年代の映画ファン雑誌のスタイルがとられている)が、ふたりの虚無的な行動に奇妙な哀愁を加えている。

これまで、テレンス・マリックの幾つか長編作品を観てきたが、デビュー作から一貫した詩的な映像の美しさと冷静な語りは凄いと実感。
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