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心のともしびの一人旅のレビュー・感想・評価

心のともしび(1954年製作の映画)
5.0
ダグラス・サーク監督作。

資産家の息子ボブが、自身の無責任な行動によって死なせてしまった医師の妻との出会いを通じて生まれ変わっていく姿を描いたドラマ。
感動的な物語だ。前半と後半でボブに対する印象が一変する。若さを武器に後先考えず無鉄砲な行動をしたことで、ボブは無関係の医師を犠牲者にしてしまう。残された医師の妻・ヘレンの悲しみに満ちた姿を見て、利己的だったボブはそれまでの生き方を改めていく。
自身の罪の重さを痛感し、盲目になったヘレンのために行動を起こすボブの姿は感動的だ。ボブは名前を偽り、ヘレンが静養する湖畔へ度々足を運ぶ。その様子には、それまで金で物事を全て解決してきたボブの姿はない。ボブはヘレンと一対一で正直に向き合うのだ。ヘレンのもとに遊びに来る小さい女の子と一緒に穏やかなひと時を過ごす三人の姿は幸福感に満ちている。
憎しみも真心が消し去ってくれる。親切にすることで何かしらの見返りを求めるなら、それは真の真心とは言えない。ヘレンに尽くすボブは最初の時こそ、医師を死なせたことに対する罪悪感とヘレンからの許しを得たいという思惑が働いていたのかもしれない。だが、自分を憎むヘレンと真正面から向き合う過程で、その思惑は真心となり、やがては愛へと昇華していく。
ボブの行く末を天使のように見守る画家の言葉も印象的だ。“人に善いことをしても、それを誰かに話してはならない”と言う画家。善い行いが人に知れ渡れば、それ以上善い行いができなくなる。それはきっと、自分の善行に他人の意思が無意識下で働いてしまうからだ。善い行いをして他人に認められるのでなく、善い行いをした自分自身に納得することだけを目的にしないと、本当の意味で人のため、自分自身のためにはならない。
そして、ボブの心の大きな変化。罪も愛も包み隠さず、真心だけでヘレンと接するボブの劇的な変わり様が感動的だ。ボブの愛は盲目のヘレンの暗闇を優しく照らすともしび。感動を盛り上げるように流れるクラシックの切なく美しい旋律が涙を誘うのだ。
また、カラー映像も美しい。太陽の光に輝く湖畔の風景の緑豊かな美しさ。開放的で明るい風景の中で展開されるボブとヘレンそれぞれの心の傷と癒しの物語。人間の善の心を信じたダグラス・サーク監督の傑作だ。
ちなみに不満点を挙げるとすれば、ロック・ハドソン扮するボブの若々しさとは対照的に、ジェーン・ワイマン扮するヘレンが老け過ぎだということ(ワイマンが8歳年上)。年齢的にはヘレンの義理の娘との方が断然お似合いカップルのような気が・・・。見た目で判断するなんて私には真心が無いんだな~。
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