くりふ

心のともしびのくりふのレビュー・感想・評価

心のともしび(1954年製作の映画)
4.0
【素晴らしき強迫観念】

ショパン「別れの曲」で幕を開ける、サーク監督のど・メロドラマ…なんだけれど冷静な視点が冴え、シニカルな視点が深みになり、浮わつかず楽しめる堅実な出来栄えです。しかし当時は、これくらいの完成度は当たり前だったんだろうなあ。

インタビュー本「サーク・オン・サーク」にある、本作の出自がめっちゃ面白いのでまず書いちゃいます。

本作はリメイクですが、元々はジェーン・ワイマンがやりたかった企画だそうですね。原作は『聖衣』の原作者でもあるロイド・C・ダグラスですがこの人、牧師らしい。自分の説教がウケなくて(笑)、娘に愚痴ったらそれ小説にすればと言われて、したそうな。

でこの原作を、サークとインタビュアーがクソミソに貶すんですよ。

「読めたもんじゃなかった。あれは想像を絶するほど、むちゃくちゃな本でしたね。あまりに訳がわからず、映画になった姿を想像することができませんでしたよ」
「あれはひどい本ですね」
「ひどい。むちゃくちゃだ」

…もう爆笑。

サークは奥さんにも、こんなのやったらおしまいだ、とまで言われたそうです。

が面白いのは、ここから考え直して監督を引き受けるんですね。真意はわかりませんが、サーク製法レシピ「素材をとことん嫌って愛すること」にヒントがある気はします。

そして結果的に本作は、当時のユニヴァ―サル最大のヒットとなったそうです。

ある偉人(MAGNIFICENT)の死により、「人に尽くすこと」を知ったロック・ハドソン演じる放蕩息子ボブの人生と、ジェーン・ワイマン演じる偉人の妻ヘレンの災難人生が、愛で絡まり大きくうねる。表向きは泣けるお話ですが、胡散臭さがスパイスになっているところが好きです(笑)。

始めから不在となる偉人の教えを受け継ぐ、オットー・クルーガー演じるエドワードがボブに「人に尽くすこと」を教えます。彼が本作の原題Magnificent Obsessionを口にし、これは病みつきになるものだと煽るんですがなんかね、信用できないんですよこいつ(笑)。

人に尽くすって、やむにやまれず行ったり、自分から気づいて行うもので、こんなふうに他人に誘導されるものじゃないと思う。

で実際、自覚なくふわふわ実行したボブは、ヘレンをとんでもない状況に追い込んでしまいます。エドがボブの資質をきちんと見ず余計なこと言うから(苦笑)。でも、エドはまるで責任感じてないようです。そこからがまあ大変。

が面白いのは「異性愛」と「人に尽くす慈愛」が混ぜこぜになったまま滑らかに盛り上がっちゃうところ(笑)。原作は読む気も起きませんが、監督が貶しているのはこの辺りか?と感じました。一種の狂気だそうですがその通り。

で、元が説教というのがわかる部分でもあります。エドは「前回これを実行した者は33歳でひどい目に遭った」とも言いますが、これキリストのことですよね?彼はキリストの弟子のつもりなのでしょうか?しかし、どっちかいうと彼、ボブを惑わせるメフィストに見えますが(笑)。

たまたま放蕩ボブは金持ちで、身近に医術という方法論もあり巧くいきましたが、そうでなかったらどうなってたことやら?その肝心の医術についても、終盤でボブ、とんでもない葛藤を起こします。こんな医者に切られたくないなー、と素直に思っちゃいましたよ(笑)。

と、本作を貶すようなことを書きましたが、これは瑕疵ではないです。監督が狙ってやっていると思うのです。ど・メロドラマのふりをして、人間の胡散臭さを冷静に見据えている。そこがとても好きなんです。

終盤、機械仕掛けの神が降臨してホントかよ、なハッピーエンドに雪崩込みますが、一方が光に包まれるのに、一方をわざわざ逆光に暗く沈ませたのは何故なのか?私はそんなところにも含みを感じて、ニヤリとしてしまうのでした。

ジェーンさんは、さすが希望の役だったせいか、的確な演技で自然と共感してしまいます。生真面目な役ですが。ロックは彼女に引き上げてもらった感が強いですね。

このコンビは大評判となって、次の『天が許し給うすべて』が作られますが、私はあちらのジェーンさんの方が、よりフェミニンな魅力が出ていて好きですね。

<2014.4.21記>
くりふ

くりふ