Dumbo

西の魔女が死んだのDumboのレビュー・感想・評価

西の魔女が死んだ(2008年製作の映画)
5.0
なんて素晴らしい映画なんでしょう…


いろんなレビューでも言ってきましたが、
梨木香歩さんが大好きです。
梨木さんの小説やエッセイは全部読んでいます。
旅行や電車移動のある日や、
病院など待ち時間のある日は必ず梨木さんの本を
持ち歩いているほど。
でもそういう時に持って行く本はだいたい決まっていて、
そういう何冊かの“大のお気に入り”の本を
一軍とすれば、
この映画の原作『西の魔女が死んだ』は、その中には入っていませんでした。
どこかで、これは思春期の女の子の物語…という思いがあったのです。


それでも好きな小説ではあり、
何度も読んでいるので、
ストーリーは全部分かっているし、
今更映画を観ても…という気持ちと、
ガッカリするかも…という怖さがあって、
映像化されてる事は知っていたけれど、
なかなか観られないでいました。

でも、皆様の評価がとても良くて、
レビューを読ませていただく度に、
これは観るべきと考え直してクリップして、
やっと観ました。

…本当に観てよかった!!



本が…そのまま映像になったようでした。
まい、おばあちゃんはじめ、キャストも、
おばあちゃんの家やイングリッシュ・ガーデン、
キッチンの道具や食器まで…すべてが、
私が小説を読んで想像していたそのままで、
本当に…
そのまま本を映像で読み直しているようでした。

梨木さんは、
昔イギリスに留学されていたことがあって、
その時の下宿の女主人が
このおばあちゃんのモデルだそうです。
サチ・パーカーさんは、
そのおばあちゃんに本当にぴったりな方で
びっくりしました。


私も、まいのように
大人からは“扱いにくい子”と思われる
子どもでした。
学校での“女の子同士のお付き合い”も
とても苦手で…
クラス替えのある新学期なんてもう本当に、
戦場に向かうような気持ちで学校に行って、
必死で友達を作りました。
まいのように学校に行かない勇気は
なかったから…本当に必死でした…

神経質で、痩せていて小柄なまいを見ていたら、
私もそんな13歳だったと
その時の“痛み”を
リアルに思い出してしまいました。

恋には憧れていたけれど、超がつく奥手で、
まいと同じように、
性的な事にものすごく嫌悪感を持っていました。
きっと私も
この時にゲンジさんみたいな人に会ったら、
まいと同じように嫌悪感を持ったに違いないと思います。

そして、
見た目“ゲンジさん”みたいな
高校の時の大嫌いだった体育の先生を思い出してしまった。
その先生は、
保健体育の避妊についての授業の中で、
「男性が結婚をする目的は定期的なセックスができるからだ」と言ったのです。
結婚に夢を持っていた高校生の私は
大変なショックを受けたのでした…

思春期とはそういうものだけど、
その時には、
苦しくてどうしようもない自分がいて、
その時に必要なのは、
おばあちゃんのようにそっと寄り添ってくれて
“自分を否定しない人”と
“まいサンクチュアリ”のような
自分を守ってくれる
“お気に入りの場所”なんですね。

みんな、そんな痛みを乗り越えて大人になる…
私はそんな人にも場所にも
出会うことは出来なかったけれど…




焦ってはいけません。
時間がかかることもあるんです。

自分が楽に生きられる場所を
  求めたからといって、
  後ろめたく思う必要はありませんよ。

  サボテンは水の中に入る必要はないし、
  シロクマがハワイより北極で生きる方を
  選んだからといって
  誰がシロクマを責めますか?




映画を観てあらためて、
これは、思春期の女の子のためだけの物語ではないと思いました。
これは生きているすべての人への
西の魔女からのメッセージ。



ラストは知っていたのに、
どうしてあんなに泣けたんだろう。
多分もう一度観ても、
また同じくらい泣くだろうと思います。

おばあちゃんの声が優しく心に響いたまま、
手嶌葵さんの『虹』が
静かに流れるエンドロールを見ていると、
もう呆然とするほど感動してしまって、
しばらく身動き出来ずにいました。


私が持っている文庫本には、
その後のまいの物語、
『渡りの一日』も収録されています。
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