Morohashi

ゲームのMorohashiのレビュー・感想・評価

ゲーム(1997年製作の映画)
5.0
◯主人公
主人公(ニコラス・オートン)は投資銀行の重役。
大金持ちだけれど、主に父から受け継いだ財産ゆえなところもある。
そんな父は48歳で失敗し、自殺の道を選び、ニコラスはその現場を目撃してしまう。

その後成功をおさめるニコラスだが、どこか「人生は自分だけのおかげ」と考えているフシがある。
それは、たとえば聖書の箇所を言われてもピンとこないような、キリスト教徒なのに無神論者のような振る舞いをするところにも表れている。

結局彼は、他の人間のことを自分にとっての損得でしか見ていなかったのだろう。ちょっと意外だったのは、はじめのころにシャツの中でペンのインクが漏れていることを指摘されたときに「Thank You」と言ったこと。あんなに攻撃的だったのに、お礼は言うんだなと好感を持てた。

けれど結局は父と同じ歳で自殺を選ぶニコラス。運命は繰り返すのだけれど、ここで人生の本当の意味を知る。
父の失敗があったからこそ、今の自分がある。このことを気づかせてくれるゲームだったはず。
ニコラスは高級車を乗り回し、いいスーツを着ているが、体験にはお金を払って来なかった様子。苦労は買ってでもしろと言うが、きっとニコラスのこれからの生き方は変わるはず。


◯金と人生観
ちょっとだけトゥルーマン・ショーに似てるなと思ったり、でもやっぱり本質は違う。
これはお金をめぐる人生観の対立が大きなポイント。
お金は人を変えてしまう。弟はゲームによってニコラスを目覚めさせたかった。
お金で得られるものは、実は全てが不安定である。存在すら不確かである。だからニコラスは金を出して自分のものにする。
けれど、人間はお金では買えない。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったもの。
実際、どんなにお金があったとしても、命にかかわる状況になると、お金があっても何の意味も持たないことを、ニコラスは痛感する。
皮肉なことに、誰かに退職を宣告することさえも、鍵がなければできないという無様さ。
人間同士の信頼関係がいかに希薄だったかをこうやって描き出すのは秀逸だった。
その上で、飛び降りるという行為がこの映画の中には複数回出てくるが、これは全てを捨てる行為であると思うと当時に、プライドの失墜を表すと思う。


◯脚本
映画は自然とニコラスに同調するように作られている。
どこまでがゲームなんだかわからない、全てに疑心暗鬼になる、とてもよくできた脚本。
そして何よりも、ニコラスに同調させることによって観客すらも騙すという秀逸な演出。っていうか、本当にあれでゲームはおしまいなんだろうか?とか色々と心配になる。

よく「運命は変えられる」と言うけれど、この映画では運命すらも決まっていた様子。運命を変えるなんていうのは詭弁なのだろうか、と少し思った。

そして、この世界の中でどうやら洗脳から逃れているらしいクリスティーンが、どんなに心強い存在であったことか。やっぱりどんな状況にあっても自分を持っている人は素晴らしい。
Morohashi

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