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マネーボールのnetfilmsのレビュー・感想・評価

マネーボール(2011年製作の映画)
3.8
 メジャー経験のあるプロ野球選手から、球団のフロントに転身するという珍しいキャリアを持つビリー・ビーン(ブラッド・ピット)。風変わりで短気なその性格は、若くしてアスレチックスのゼネラルマネージャーになってからも変わらなかった。自分のチームの試合も観なければ、腹が立つと人や物に当り散らすという、癖のあるマネジメントを強行。そんな変わり種が経営するアスレチックスは弱かった。しかも、貧乏球団のため、優秀で年俸の高い選手は雇えない。チームの低迷は永遠かと思われ、ワールド・チャンピオンの夢はほど遠かった。今作は現代スポーツ・ビジネスの裏側を据えた恐るべきルポルタージュである。各球団には儲かっているチームとそうではないチームがあり、バックに支持基盤を持つ球団は金満経営で、次々に貧乏チームの有力選手を引き抜いていく。多かれ少なかれ世界各国のスポーツ・チームの運営とはこのように功と罪を両方孕んでいるのは疑いようもない。

 選手のトレードが、次の年のチームの戦力にさえも影響を及ぼしかねない。実際に今作ではジェイソン・ジアンビという2000年代を代表する一塁手のアスレチックスからヤンキースへの移籍がその一例として出て来る。高額な移籍金に目がくらみ、育った球団を出て行くのは何もジェイソン・ジアンビに限ったことではない。スポーツというのは資本主義社会の縮図であり、弱肉強食の世界である。そこは金がモノを言う世界であり、根性とか努力とはまったく関係ない次元に存在する。ここで描かれるのは伝統vs革新との終わりなきバトルであろう。球団はGMと呼ばれるゼネラル・マネージャーの下に、数人のスカウトを引き連れている。皆大リーグとの関わりは20年以上という筋金入りのスカウトであるが、ビリー・ビーンは彼らの意見が気に入らない。彼らは選手を駒のように扱い、1人1人に辛辣な分析を挙げ連ねていく。この楽屋裏でのやり取りを選手本人が見たら落ち込むだろうなと思うくらい、歯に衣着せぬ発言を彼らは延々繰り返す。確かに彼らの意見はもっともに思える部分もある。だがビリー・ビーンは観客の心の中にある違和感を掬い上げるのである。

 ここでビリーのお眼鏡にかなうのは、野球経験はないものの、データ分析が得意なピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)という球界の異分子の存在である。ビリーは後に“マネーボール理論”と呼ばれる“低予算でいかに強いチームを作り上げるか”という独自の理論を実践。だがそれは同時に、野球界の伝統を重んじる古株のスカウトマンだけでなく、選手やアート・ハウ監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)らの反発を生み、チーム状況が悪化。それでも強引に独自のマネジメントを進めてゆく。球団が従来持ち得ていた伝統という権威に対し、ビリーとピーターが提唱するのは評価の世界から一切の数値以外の評価軸を取り払った恐るべき理論である。そこには長年スカウトを務めた男の直感とか匂いとかは通用しない。あるのは情報化社会の進化に基づいて抽出されたデータへの飽くなき探求である。