2025年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品、女優賞/クィア・パルム受賞作品。アフシア・エルジ長編四作目。ファティマ・ダースによる自伝小説『The Last One』の映画化作品。カンヌは昔から俳優の撮る映画に甘いなあと昨年のジル・ルルーシュ『Beating Hearts』を観ながら思っていたら、今年も本作品がコンペに選出された他、スカーレット・ヨハンソン、クリステン・スチュワート、ハリー・ディキンソンなどの作品がドカドカ選出されていて、やれやれと。まぁレッドカーペットは豪華になるけども。本作品の主人公はある三姉妹の末っ子ファティマである。物語は高校も卒業間近の春に始まり、次の年の春までを描いている。高校時代のファティマは成績優秀だが、なぜか不良男子たちとつるんでおり、同級生をゲイだと決めつけて虐めるのに加担していた。この生徒に"じゃあお前はレズビアンだな!"と罵られると、憤慨し激しく殴打し始める。女っぽい格好をしないことや料理が出来ないし興味もないことを恋人や家族のイジられ、同性愛を認めないイスラム教を信仰するファティマにとって、ジェンダーへの違和感は受け入れがたいのだろう。同じ時期に彼女はレズビアン用のマッチングアプリに登録し、様々な女性と出会っていく。それを通して出会ったのが看護師のジナだ。しかし、ジナも問題を抱えていて云々。結構サクサクと展開していく中で、最初はめちゃくちゃ警戒して偽名を使ったり嘘の家族情報を話したりしていたのが、次第にレズビアンとしての自己開示に慣れていって、ジナとの出会いで初めて"ジナに会いに来た人物"とファティマその人を一致させるという流れは上手い…かもしれないが、心情変化というよりもダイジェスト感の方が先に来てしまうのは、それぞれのシーンが記号的/説明的すぎるからか、既視感だらけで主軸に寄与せず無駄に見えるシーンが多すぎるからか、或いはどのシーンも感情の昂りとか状況説明とか、何かがちょっとずつ足りず味気ないからか。とにかく引っ掛かりなく終わってしまった。彼女がイスラム教徒であること、家族にはいえないことは彼女がレズビアンであることを認め徐々にオープンになっていく過程と同じくらい重要と思うが、イスラム教徒関連の挿話は後半でいきなりイスラム教の導師に"レズビアンの友達を信仰に戻したいんですがどうすればいいですか?"みたいなことを訊いて"同性愛は神が禁じたので許されません、女っぽくすれば男が寄ってきてもとに戻るでしょう(意訳)"みたいなことを長々と説教されるシーンに留まる。ここまで、祈るシーンやそれを止めるシーンも何度か描かれていたので、そっちの路線で行けばいいのに、導師に喋らせちゃうのは、やはり説明的すぎるんだよな。親切で丁寧なのは分かるが、1と1を足すと2になります、と言われても"そうでしょうな"としかならないのが残念。まぁ一番残念なのは、三姉妹の末っ子という題名なのに、上の二人の姉がほぼ空気なとこですがね(末っ子だから料理しないのもスポーツやってるのも"許されて"るんだろうけど)。『ソウルに帰る』以来、久々のパク・ジミンを楽しみにしてたのだが、あんまり出てこないし。ちなみに、彼女は今年のカンヌに他二本出演作があるという過密仕事っぷりでした。