ろく

お引越しのろくのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
4.5
最後の抒情派、相米慎二ウィーク①

まずみなさんに連絡。ヤバいですよ、相米のU-nextラインナップが9月で配信終了です!あの名作「台風クラブ」にこの間レビューした「風花」さらには湯本原作の日本版スタンド・バイ・ミー「夏の庭」に坂上忍が若すぎる「ションベン・ライダー」そして本作品も全部9月で配信終了。なんてこったU-next。というわけで配信されないとなると慌てて視聴。

で、関西弁がズルすぎるって話ですよ。

僕は関東から出たことないんだけど(東京下町ソープ街出身)関西弁は妙に「相手の気持ちに入ってくる」よね。そこがなんともズルいんだ。とにかく田畑の気持ちがするするっと入ってくる。これは「じゃりんこチエ」なんかもそうだけど、そこに言霊があるんじゃないのって思ってしまう。

話は離婚する父母の間で娘は……という定番ではあるんだけど、そこは相米のマジックで語らせないけど「寂しい」し「辛い」の。そしてその「寂しい」や「辛い」をセリフでなく映像で見せるとこがほんと真骨頂だよと感じてしまう。

とくに後半のあの火祭りのシーンから「ありがとうございます」。なんてものを見せるんだと思って見入ってしまった。僕らは田畑にはなれないはずなのに同じ気持ちになって一緒に「寂しく」なってしまう(「寂しく」なんて言葉は本当はあってない。もっと複雑だ。あえていうなら田畑になるんだ)。それを語らない。でもただ「見せる」。延々と長いシーンを無駄と見る人もいるだろうけど、僕はそれこそが相米の魔法だと思っている。タイパやコスパが語られるなか、その対極にいる監督ではないかと思う。映画は能動的ではない、受動的だ。ただひたすら「見せられる」。そしてそこから動いてはいけない、目をそらしてはいけないと語りかける。僕らは映画を見ている間行動を制限され、ただ画面だけを凝視する。それを意図的にやろうとしている監督だと改めて思う。

相米の映画にはいつも釣瓶が出てくる。あの細い目は何も見ていないようで全てを見ている。相米の映画もそうだ。彼はワンカットであまり変化しない画面からいつも僕らを「見ている」。
ろく

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