天豆てんまめ

独裁者の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
4.0
1940年10月にこの映画がアメリカで公開されたことに驚く。

完全にヒトラーを皮肉っているわけだけど、そのリアルタイムインパクトとチャップリンの勇気は凄いことだと思う。

ユダヤ人の理容師が自分にそっくりな顔をした独裁者ヒンケルがユダヤ人迫害をしていることに直面する設定だけど、この2役をチャップリンが演じている。

それまでのパントマイム芸の面白さを恐ろしさにまで発展していることに驚く。

この映画で残忍な独裁者の狂気をヒトラー演説を収めたニュースフィルムを入念に研究して、この役を体現したらしい。

ちなみにチャップリン初のトーキー映画がこの作品。

多くの観客が彼の肉声を初めて耳にしたわけだけど、それがこの作品とは!

最初の独裁者演説と、ラスト6分間のユダヤ人理容師の魂の演説(これはもう必見としかいいようがない、、、)の、まさに声の力で心を震わせる、そして言葉の力で時代が揺さぶられる演説シーンが、このチャップリン初トーキー映画でなされたことは歴史的にも相当なインパクトだったと思う。

現実では1936年に政権を獲得していたナチスドイツのアドルフ・ヒトラーが、その2年後、全ユダヤ人抹殺を掲げ、その後、どんどん勢力を拡大し、まさにナチス勢力絶頂、脅威が欧州全土に浸透しきった頃、ヒトラーと誕生日が4日しか違わないチャップリンが、自分の最大の武器である映画を使って、ヒトラーに戦いを挑んだ。

だからこそ、どうしてもトーキー映画にする必要があったのだと思う。

時代とのシンクロ性はまだある。

クランクインが1939年9月9日で、なんと撮影に入る8日前の9月1日にドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が始まり、その直後に撮影が始まったという。

当時、ドイツ、イタリアと三国同盟を結んでいた日本ではもちろん公開されず、この映画を観て、ヒトラーの真実を知ることのできた国民はいない。

日本公開は1960年10月。20年もの月日が経った後だった

いつでもチャップリンは弱い者の味方だった。

もう一度言うけれど、ラスト6分間にもわたる大演説(独裁者でなく理容師)の最初はか細くとも、段々と力強く、そして奮い立たせるような響きをもった、魂が揺さぶられるこのシーン、チャップリンの役者人生の集大成ともいえるシーンを体感して欲しいと思う。

時代を超えた想いが、切実さが、迫力が、

ただただリアルにそこにある。