ちろる

奇跡の丘のちろるのレビュー・感想・評価

奇跡の丘(1964年製作の映画)
4.0
『ロゴパグ』で描かれるパゾリーニの宗教コメディがシュールで思いの外面白かったので、イエス・キリストの誕生から復活までを描くにしたこちらをぜひ観てみたいと思い鑑賞。

こちらの大作は、まるで聖書の「マタイの福音書」を読んでいる最中に頭の中で想像する映像の如く、無駄な脚色なしに厳かに静かに彼らの物語は紡がれるまるでドキュメンタリー。

キリストを偉大な存在と位置付けるための大袈裟に脚色されたエピソードもキリストに対する演出もなく、ベツレヘム、ナザレ、そしてガラリヤ湖まで福音の旅に向かいそして自らの処刑の場となるエルサレムへとたどり着くまでを淡々と観せる。
しかしそれらの描写は決して無機質なものではなくどのシーンも絵画のように美しく、削ぎ落とされたセリフの代わりに視線で演技を紡ぐ役者たちの繊細な演技に目が奪われる。
なんていう再現力!

しかし調べてみるとなんと、パゾリーニは無神論者だったそう。
(ロゴパグを観れば納得だけど)
もちろんイタリア人である以上聖書の内容は刷り込まれていただろうし、この作品を作るにあたり熟読したのだと思うが、聖書に特段の思い入れもない彼がなぜこれを描いたのだろうか?
これは勝手な推測だが、彼は決してイエス・キリストの存在自体。否定しているわけではなく、かつて実在した歴史的人物としてドキュメンタリーのように見せたかったのかもしれない。
ハリウッドやヨーロッパに多くある熱量の強すぎる、説教じみたイエス・キリストの物語に対して辟易き、それらへのアンチテーゼのような意味合いがこの作品に込められていたのではないのだろうか?と思う。

結果的にパゾリーニの映像美の中に載せられたこのキリストの物語はキリスト教徒の少ない私たち日本の人たちにとって一番受け入れやすいものとなった。

数あるキリストを題材にしたセンセーショナルな作品らはエンタメ作品として楽しむのはいいが少々感傷的すぎる傾向があるが、これにはその嘘臭さが極力抑えられていて非常に受け入れやすい。
特段な思い入れがないからこそ、監督の思想も削ぎ落とされ、リアリティのある再現力と映像美に重視した壮大な作品が結果として後世でも価値を持って受け継がれる作品となったのだろう。
もちろん聖書の内容自体がどうだかという人にはお勧めしないが、キリストの生涯について、新約聖書に描かれている世界について気になる人は是非ともこちらをおすすめしたい作品です。
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