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プレシャスのodyssのレビュー・感想・評価

プレシャス(2009年製作の映画)
3.7
【向上心こそが人を救う】

絵に描いたような、と言いたくなる社会派ドラマです。

まず、ヒロインがいかにもアメリカ下層民ふう。ぶくぶくに太っているのは、下層だから。昔なら下層は食べるものもロクにないから痩せていたのですが、昨今では安価でカロリーの高い脂分の多い肉だとかジャンクフードだとかばっかり食べているので、下層ほど太っており、逆にリッチな人ほど自分の健康維持にカネと関心を払っているのでスマートというのが相場らしい。

ヒロインの母親もいかにも下層。向上心がなく、教育をバカにし、生活保護でカネをもらうことばっかり考えている。父親も、娘をレイプして妊娠させるようなロクデナシ。そんな両親を持ちながらも、ヒロインは何とか今の暮らしを脱出しようとします。

そう、人間は向上心を持つことがすべての始まりなのです。この映画の母親みたいにそれがない人間はおしまいです。ヒロインは16歳なのに読み書きもまともにできない状態なのですが、それでも支援学校に通ってなんとか学力をつけようとします。

少し気になったのは、映画の最初のあたりではヒロインは数学はわりにできるようなことを言っていたと思うのですが、支援学校に行ってからは読み書きばっかりになっていること。読み書きそろばんが教育の基本であることは日本でも昔から常識ですが、得手があるならそれを伸ばして自信をつけさせるのも教師としては常道でしょう。筋書きの面でその辺にやや齟齬があるなと感じました。

しかし、悲惨な状況に置かれた黒人の少女がそれでも自立の道を歩もうとする物語は、観客の心を打ちます。20年前のアメリカのお話だと片づけてはいけません。日本でも貧困が問題になっていますが、学力のせいではなくオカネのせいで高校に行けない子供が増えているのです(青砥恭『ドキュメント 高校中退』〔ちくま新書〕を参照)。

また、オカネがないわけでもないのに何となく高校を中退してしまった女の子も私の近所にいますが、未成年でバーに深夜まで雇われるなど(むろん法律違反)、自分からまともな人生を捨てていっているような有様には首をかしげるしかありません。この映画が扱っているのはわれわれ日本人の問題でもあるのです。そう、向上心のない人間は、結局はこの映画の母親みたいになるしかないのですから。

なお、支援学校のレイン先生が魅力的。演じるポーラ・パットンは『デジャヴ』以来ですが、もっと映画に出て欲しい女優さんですね。
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