トムヤムクン

アカルイミライのトムヤムクンのレビュー・感想・評価

アカルイミライ(2002年製作の映画)
5.0
夢遊病者のように突拍子もなく動き回るオダギリジョーの演技が素晴らしい。軽トラ内で藤竜也とオダギリを分割して捉えているカメラも面白い。松山ケンイチどれ?と思ってたら、ヤンキー・グループのなかでなかなかの存在感を放っていた。
アカルイミライは子供の頃の夢のなかにだけあった。劇中の人々には悉く、未来がない。70年代のあの狂熱はなんだったのかと自問する初老の男。廃品回収も夢がないと言われてしまう。そんなグレーがかった映像のなか、劇中には社会主義の夢にまつわる色々なモチーフが散見される。弁護士事務所の壁には花瓶の後ろにゴダールの『中国女』のポスターがあったり、不良たちは制服の下にゲバラのシャツを着込んでいる。20世紀の社会主義実験は潰え、テロリズムとともに幕を開けた21世紀。弁証法的な歴史の終わり、資本主義リアリズムの全面化していく時代が幕を開けようとしていた。別の社会は端的に不可能だというのっぺりした絶望感。薔薇色の未来を安易に夢みることなど誰にもできはしなかったはずだ。それでもミライを夢みるために、敗れた過去の夢の欠片、映らなくなった廃品でもかき集めてみようとした物好きたち。女の子を一刺しして騒動を起こしたものの、あっさりと駆除されてしまい海へと逃げていくクラゲたちは、ほとんど不可能に思えるような抵抗のシンボルなのか。
東京の真水にクラゲが泳ぎ、死者もいつだって戻ってくる。クラゲは不確かなアカルイミライのシンボルなのかなぁ。「人を刺して迷惑だから」とかいう理由で駆逐されてしまうけど、都会の真水も海の塩水も同じく故郷とし、しぶとく戻ってきて平穏無事なこのクソ現実を脅かすのかもしれない。行け、待て、行け。
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