(2025.19)
ただの酒を貴重な薬であると売り歩いている詐欺師のドク(ウィル・ロジャース)は、稼いだ金で甥っ子のデュークと共に乗るための蒸気船を購入する。しかし、その晩ドクの家に慌ててやってきたデュークは、恋人フリーティ・ベルを守るために殺人を犯してしまったと告白する。状況からして明らかに正当防衛だったため自首を勧めるドクだったが、悪名高い判事の手によりろくに考慮もされないままデュークは死刑になってしまう。ドクとベルは、潔白を証明するため唯一現場を見ていたとされる“新生モーゼ”を名乗る怪しげな預言者を探すため奔走する……というお話。
叔父さんと甥っ子の恋人という異色のバディもので、胡散臭いが正義感は強いドクと跳ねっ返り娘なベルという、一見正反対のようで意外と良いコンビな二人の関係性が、家族でも友達でもないし、かといって全くの他人でもないという独特の距離感で新しくて良かった。
自分が観たジョン・フォード作品の中では一番コメディに振り切っていて、デュークの死刑が迫っているという一点を除けばスラップスティックなドタバタが繰り広げられる平和で楽しい作品。
何と言っても凄いのがラストに繰り広げられる蒸気船レースで、川に並んだどデカい蒸気船が黒煙と炎を噴き上げて走る様は、スピードこそ無いが異様な迫力がある。
ライバルに負けそうになったドクが、ありとあらゆるものを炉にぶち込んで加速していくシーンもまた強烈で、これまで映画で見せてきたものが全て爆発を起こしながら炎の中に消えていく様は、これまでの展開を糧にラストに突っ走るこの映画そのものの具現化のようで、得も言われぬ快感すら感じた。そのままオチまでなだれ込むかのようなスピード感も素晴らしく、この最後の十数分間だけでも大満足できる凄味があった。