netfilms

8時間の恐怖のnetfilmsのレビュー・感想・評価

8時間の恐怖(1957年製作の映画)
4.0
 黒ずくめの汽車は山間の小駅で寂しそうに停車している。駅長室にはこの列車に乗るはずだった乗客たちの怒鳴り声やクレームが鳴り響く。水害で不通になった列車だったが、次の列車は来る気配がない。時刻は深夜2時。傲慢そうな重役の中山(深見泰三)とその夫人(三鈴恵以子)、セールスマン花島正吉(柳谷寛)、左翼運動家の女子学生(香月美奈子)と、学生・青木(二谷英明)、パンパン・ガールの夏子(利根はる恵)、柳川義太郎(永井柳太郎)としづ(原ひさ子)の老夫婦、小粋な三十女の阿久津澄江(志摩桂子)と若い燕の高田富夫(中原啓七)、家出した田舎娘の吉岡ハル(福田文子)らがしびれを切らすようにしぶしぶ振り替え輸送を待っていた。やがてバスが到着すると、そのおんぼろな見た目に躊躇する一向。次に残念なお知らせとして駅長が、「銀行を襲撃して現金2千万円を奪った2人組のギャングが、この方面に立ち廻った形跡がある」と報告する。動揺した乗客は次々とバスに乗り込み、総勢14名を乗せたボロボロのバスは、朝方の東京行きに間に合うように真夜中の暗がりの中を8時間の旅へと出発する。

 冒頭にお役御免となった列車の代わりに今作ではバスが事件の舞台となる。アンサンブル・プレイで集められた総勢14名は定員オーバーのバスへ乗り込み、オマケに険しい山道を走るバスの走路は暗く、舗装されていないデコボコ道を頼りなく走る。銀行強盗犯の2人に同乗されたくないと逃げるように出発したバスだったが、その中には一本の手錠でつながれた刑事(成田裕)と殺人犯・森公作(金子信雄)が同乗していた。世代も住まいもまったく違う14名のストレスは既に、バスに乗り込んだ時点から続いている。突然商品のセールスを始める者もいれば、赤ん坊を抱えた母親・村上時枝(南寿美子)は自殺願望でうっかり自死しようとしたりする。しまいには遂に2人組の強盗がバスをジャックし、総勢14名は極限の状態の8時間を強いられる。さながらアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの『恐怖の報酬』ばりに訪れるぐらつく橋の恐怖。仲間割れや死と隣り合わせの病気など、バスが停車する度に起こるアクションのカタルシス。森公作は罪人には違いないが、彼が微かに漂わす善人としての倫理。暴発寸前の強盗犯をたぶらかすような娼婦の気高さ。赤ん坊を守ろうと女たちが列を作り、強盗犯ににじり寄る様に清順の痛快な美学が滲む。
netfilms

netfilms