シモン

裏窓のシモンのレビュー・感想・評価

裏窓(1954年製作の映画)
5.0
3回目

恋愛とは…結婚とは…

相手を分析する理性的な結婚(現代の結婚)と
一目惚れや子供を授かることでする結婚(一昔前の結婚)

向かいの家の独身女性が、記念日ディナーを一人で演じて落胆するシーンは、結婚というのは幻想であると言いたいのかな。そしてそれを見て”孤独”に乾杯をするジェフ…笑

あとヒッチコック途中でアガサクリスティのことディスってないか?笑
「女性の推理は雑誌にはいいが、現実ではまだおとぎ話だ。女性の推理に乗せられて何年ムダにした事か」(刑事のセリフ)

刑事のドイルという名前はコナンドイルから来てるのかな


▼ネタバレ

帽子のケースに入っているものはお分かりの通り…ゾワ
(大きさ的にアレしかないよね、、看護婦の見せた表情からしても)

テーマ概要
あれもこれもと欲求不満を満たそうと欲ばりすぎると、気づかぬ間に自分の得だけを考えるようになって人に対する尊厳を失ってしまいますよ。まるで向かいの家で起きた事件の発端である主婦のように。というお話

皮肉的にも、ジェフはギブスのせいで脚が痒くても掻けないという有様。ムズムズがあるとなんとかしてそれを解消したいと思う欲求不満な状態。観察中に見てしまった向かいの家の男の怪しい行動(事件の匂い)もそのムズムズの一つだろう。

・看護婦が語るGMの株価大暴落を予知した話
「過剰生産よ、崩壊。株価は暴落したわ」(看護婦のセリフ)

過剰生産恐慌とは、
“モノをつくり過ぎて社会全体が苦しむ”ことで、資本主義につきものの病。 資本家は、より大きな利潤追求を至上目的として生産活動をすすめ、過度の投資・投機=バブル(過熱の時期)への軌道を暴走してしまう。他方では、労働者に対する搾取・収奪の強化によって消費購買力を奪ってしまう。”(出典:しんぶん赤旗)

・真ん中に空洞のあるへんてこな彫刻物を作るおばさん
「それ何だい?」(隣人のセリフ)
「”空腹”って題よ」(向かいの下の階に住むおばさんのセリフ)
空腹、つまりはこの映画のテーマである「欲」

・欲張ってブランデーを一気飲みして服にこぼす刑事

・ドッグキラー
とあるカップルの飼っている子犬が死体で発見される。
「唯一近所の皆を慕ってたのに…。慕ってたから殺したの?慕ってきたから?」[Did you kill him because he liked you? Just because he liked you?](飼い主のセリフ)
これはつまりは、慕ってきたやさしい夫を邪険に扱った(ある意味殺した)妻に向けて言っているのだろう。夫がお金に困っているのに高価なジュエリーを買わせるわけだしね
そうすると、ジェフのことを慕っているリザを邪険に扱うジェフ本人もドッグキラーの一人となる。

※余談
このメタファーは、映画ロンググッドバイに一瞬映る”Beware the dog”(犬に注意)という看板と、裏窓での犬殺し”dog killer”を合体させて”Beware the dog killer”という文句で映画アンダーザシルバーレイクでオマージュされている。


一方で、邪険に扱われるドッグ側も、自己肯定感が低く承認欲求の強い状態なため、相手の尻に敷かれたり利用されたりすることに対してつい我慢/承認してしまう。
不倫相手と共謀して病人の妻を殺した向かいの家に住むセールスマンの男はもちろんのこと、ジェフの婚約者のリザもそう。
リザの場合は、大金持ちの娘として生まれ何もかも手に入れてきた人生。だが一番憧れている好きな人との結婚生活だけはなかなか手に入らないという不満を持っている。そこで、ジェフの機嫌をとるためにも、殺人事件の匂いがするという意見に賛同し始め、ついには無理までしてしまう。

・妻を殺した証拠である結婚指輪をジェフに向けて見せびらかすシーン(左手の薬指のドアップ)
これは、「あなたのために無理して殺人の証拠をおさえた」つまり、「あなたからの結婚指輪はもう受け取ったわ」という結婚の意思表示とも読み取れる。


しかし、“欲望即解消ドッグキラー”と“持続的欲求不満ドッグ”という不安定な夫婦関係のままではうまくいくわけもなく、結局はああいう形で殺人事件が起きてしまう。
と考えると、いずれジェフとリザとの間でも似たようなことが起こってしまうのでは…
リザの登場シーンで、ジェフの体に映る彼女の不気味な影がまさにそれを暗示している。
最後のシーンで、リザがベッドに横たわって、ヒマラヤ登山の本を読むフリをしてファッション雑誌を読むところも、仮に結婚できたとしてもいつかリザが不満を爆発させてしまう(ジェフを殺してしまう)予兆なのかもしれない。

この映画を見ると、そこまで結婚て大事ですか?って考えてしまう。けど人間誰しも孤独は嫌いで、誰かとともに生きていきたいと思う。だからこそ結婚というのは一生人間に付きまとうジレンマなのかもしれない。

「結婚した方がいい。孤独な老人になる前にな」(出版社に務める仕事仲間のセリフ)

冒頭の電話のシーンで、出版社の編集長になった仕事仲間の友人でさえ秘書を口説いて恋愛(結婚)を求めている。



映画制作時の情勢を考えると、
第二次世界大戦の最中、アメリカ国家の欲に国民の愛国心が利用され、戦場に駆り出されることで不当に犠牲になってしまうことに対する異議、つまり反戦の訴えを感じた

最後のシーンで初登場した、戦争から帰ってきたバレリーナの友人スタンリーはその暗示かな

「大人になったわね」(バレリーナ)
「腹が減った。冷蔵庫に何かある?」(スタンリー)

ヒッチコックは、この世界は誰かの欲望のために誰かが利用され、その誰かが新たに欲を持ち、再び誰かの尊厳を犯していくという負の連鎖である。ということを描きたかったのかな。


ウィリアム・アイリッシュの「裏窓」(原作)も非常に気になる
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