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ヘアスプレーの一人旅のレビュー・感想・評価

ヘアスプレー(1988年製作の映画)
4.0
ジョン・ウォーターズ監督作。

1960年代のボルチモアを舞台に、ダンスが大好きな太っちょ少女・トレイシーが地元の人気ダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」のレギュラーメンバーに大抜擢されたことで巻き起こる騒動を描いたコメディ。

カルトの帝王、ジョン・ウォーターズのメジャー初進出作品。ジョン・ウォーターズと言えば、やはり悪趣味全開の下劣な演出が強烈だった『ピンク・フラミンゴ』が群を抜いて有名だ。女装巨体怪優のディヴァインが犬のフンを喰らうシーンはもはや伝説。個人的には、汚らしい男がM字開脚してケツの穴を自由自在に開閉させるシーンが最も衝撃的だった(あの男の感情を失った表情が忘れられない)。メジャー進出後のジョン・ウォーターズの作品は進出前のものと比べると明らかに下劣度が劣る。キャスリーン・ターナーのサイコパスっぷりが印象的だった『シリアル・ママ』も、先に『ピンク・フラミンゴ』を鑑賞してしまうと「なんだ、どうってことないな~」と感じるかもしれない。

本作は本家本元の『ヘアスプレー』。ブロードウェイでミュージカル化されたり、2007年にはジョン・トラヴォルタ出演でリメイクもされている(厳密にはミュージカルの映画化)。そのためヘアスプレーというタイトル自体は若者を中心に知名度があるが、もともとはジョン・ウォーターズの作品だということはあまり知られていないと思う。

本作はジョン・ウォーターズ“なのに”ちょっぴり社会派。憧れのダンス番組のレギュラーに決まった主人公・トレイシーだが、番組の人種差別的方針に疑問を抱く。人種差別撤廃を求めて家族や仲間たちとともに立ち上がるトレイシー。しかし、数々の困難がトレイシーを待ち受けていた...。ね、社会派でしょ?
番組主催のイベントに黒人は入場させてもらえない。黒人が番組でダンスできる日を別に設けて、白人と黒人が同時に番組に出演できないようにするという大胆な差別。黒人差別描写で特に可笑しいのは、トレイシーの親友・ペニーのヒステリックな母親の異常な行動だ。ペニーが黒人の青年と付き合っていることを知った母親は猛烈に激怒。「あんたは病気よ!」と叫び、うさん臭さプンプンの精神科医にペニーの荒療治をさせる。ペニーの女の子女の子したお部屋が精神科の独房スタイル(鉄格子付き!)に様変わりするシーンに笑った。このお母さん、かなり病的で、街で黒人を見かけただけでもパニックに陥ってしまう。黒人差別を極端にデフォルメした演出が滑稽だ。

ストーリーは、人種差別に立ち向かうトレイシーの奮闘を中心に描いているが、エッセンスとして明るさ満点のダンスシーンが華を添えている。クラシカルなダンススタイルが一周回ってかっこよくオシャレに見える不思議。だらしないボディを激しく揺らしながら踊るトレイシーは躍動感でいっぱい。「ゴキブリ女!」呼ばわりする性悪な女ライバル・アンバーに対し、ゴキブリデザインのドレスで華々しく登場してみせるトレイシーの姿が強烈に印象的だ。

また、本作が遺作となってしまったディヴァインの最期の怪演も見逃せない。エディ・マーフィのように、トレイシーの母親と番組プロデューサーの一人二役を演じる。母親を演じる時は想像通りの女装姿だが、プロデューサー役の時は髭面のいかついおっさんに大変身。見た目は怖いのに、声が妙に女っぽいから一発で分かる。
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