黒沢清監督のオリジナルビデオ作品。監督もさることながら、主演が香川照之と哀川翔と今考えると劇場公開されなかったことが不思議なくらい。そして内容もまたビデオ作品とは思えないほど黒沢清監督しか作れない底知れぬ恐怖が宿ったサスペンスとなっているのだ。
娘を殺された宮下(香川照之)が謎の男、新島(哀川翔)の協力を得て復讐を果たそうとするという物語。ストーリーだけ聞くと普通の映画だが、話が進んでいくうちにこの映画がただの復讐モノではないことに気付かされる。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、サスペンスにおいて重要な「結局何が起こったのか」ということが最後まで詳しく明かされない。そこがこの映画の主題ではないからだ。実際に起きたことが重要なのではなく、その過程で人はどう変わってしまうのか、どこまで残酷になっていくのかがこの映画のテーマなのだ。
象徴的なのが新島が先生をしている塾でのシーン。生徒の年齢はバラバラで、教えている内容は複雑でよく分からない空間についての数式だ。初めはギャグかと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。ラストで新島が数式を眺める宮下に向かって「お前も興味あるのか？」と聞く。そこでの靄がかかった夢の中のような映像は、宮下もまた復讐に囚われたあまり、人ならざる者に変わってしまったことを表しているのかもしれない。
徐々に真相へ近づいていく緊張感や先の読めない展開、あと香川照之の死んだ目だったりと、ストレートなサスペンスだったとしても十分面白い作品になっていたのだろう。だが、そこで収まらないのがこの作品の凄いところ。復讐というテーマを他の映画とはまた違う視点から描いた秀作だ。
