春とヒコーキ土岡哲朗

嫌われ松子の一生の春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

嫌われ松子の一生(2006年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

とことんまで滑稽に描かれた悲劇。

とてつもなく不幸な主人公・松子は、誰よりも愛に生きた女だった。悪い男に惚れては、とんでもないことをしてしまう。それを、ミュージカルにして綴っていく。原色系の色に淡く輝く映像で、歌のシーン以外も綺麗に装飾。
松子は父に無条件に愛される妹に嫉妬する。そこから始まる転落人生を、電話で「すげぇ」と笑ってしまう瑛太。観客も瑛太と同じ、荒唐無稽なまでの悲劇を楽しむスタンスで観る映画。この映画は、松子が不幸になればなるほどハイテンションになっていくように見える。

松子が惚れるダメ男の一人を演じる宮藤官九郎。彼は、松子の愛の大きさに気付きながらも、自分の器の小ささの自覚から、それを無下にし続けた。
松子を待ち続けていた妹は突然の松子の訪問に大喜びするが、松子は泣きながらまた飛び出してしまう。罪悪感や劣等感から、松子も自分に向けられた愛に応えられず、怯えてしまった。
松子は、武田真治を殺害。カーペットやカーテンの青に、血やバラの赤が浮き出る演出が、綺麗すぎてえぐさが隠されていることが、逆にえぐい。出所後に、刑務所時代の親友と再会した松子。松子には人を支える面もあったのだと分かる。その親友曰く、松子は、会ったこともない瑛太に、自分を分かってほしいと託している。終盤の、松子の死ぬ直前の様子を瑛太が見ている演出は、瑛太が松子を理解し、松子の不幸な人生も救われたように感じた。
「この人となら地獄でもどこでもついて行く」とハッキリ言い切れた松子は、どちらも地獄なら、孤独より愛を選ぶ。自分の求めるもののために辛い人生を覚悟できた、たくましい女。トラブルを起こしつつも全身全霊で愛を注げる松子は、深い愛情に溢れた、根っからの善人だったんではないだろうか。
この映画は、途中から松子が語り手となるが、その語りは光GENJIのメンバー・内海に書いた長過ぎるファンレターだったという、全部をかっさらうギャグ。しかも、ファンレターの返事が来ないことに憤怒する松子。結局、愛を注ぐことに狂う姿勢は変わらない。
いろいろあっても「私、まだやれる!」と奮起した松子だったが、バカなガキに殺されてしまった。やはり、滑稽なほどに悲劇。最後、幻の中の妹の「おかえり」に、「ただいま」と返す松子。男への愛で人生を破滅させ続けた松子が、本当は一番求めていた、そして実は手に入れていたのに気づかなかったものは、家族の愛だった。悲劇なのに、最後には愛の温かさを感じた。