ざわゾンビ

めしのざわゾンビのレビュー・感想・評価

めし(1951年製作の映画)
4.4
なんて愛おしい作品だろう…

朴訥な夫初之輔を上原謙が、美しく、しかし、変わらぬ日々の暮らしに少し疲れた妻三千代を原節子が演じる。

夫は食卓に座れば新聞を広げ、タバコを吸いながら「めし」と放つのみ。
配膳されためしを食べながらも新聞からは目を離さず、妻との会話は殆どない。

そんな中、夫の姪である島崎雪子演じる里子が押しかけ、物語が動き出す。

若く可愛い里子に持て囃され、満更でもない夫。
会話も多い。
そして、それを一つ屋根の下でまざまざと見せつけられる妻。
彼女の怒りと嫉妬は臨界点に達し、実家へと戻ってしまう。

夫は少したじろぐものの、基本的には今までの彼と変わらない。
後ろめたい事など何もないのだから当然である。

妻と夫が再会を果たすシーン。
普通の作品なら「君を迎えに来た!」とでも言うのだろが、彼は違う。
彼の言葉に、妻はつい微笑む。
「あぁ、そうだ、この人はこういう人なんだ。」と。
ここからラストまで、僕は笑いながら泣いていた。

伏線などなく、起伏も少ない。
淡々と進む物語だ。
しかし、紛う事なき名作である。

不器用だが誠実な夫を演じた上原謙の演技は飾りっ気がなく素晴らしい。
そして何より、原節子の嫉妬に満ちた表情が、そして、全てを受け入れ、幸福に満ちた表情がたまらない。

また、舞台となった古き良き大阪は、そこに住まう僕にとってたまらないロケーションでした。

ラストのナレーションは、現代の女性には受け入れられないものかもしれない。
幸福の形は、時代と共に移ろいゆく。
しかし、それを差し引いてもこの作品の魅力が欠ける事は決してない。