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愛の記念にのNMのレビュー・感想・評価

愛の記念に(1983年製作の映画)
3.9
ここまで掘り下げるか、ここまでこじれるか、という、ごく普通はずだった一家の物語。

サンドリーヌ・ボネール演じるシュザンヌ。
そんなに悪い子でも不良少女でもないのだが、思春期の彼女は家族や友達、ボーイフレンドたちと次々トラブルが起きる。

家にいづらく、ますます出歩く。

すると先に業を煮やした無口だった父親が出ていき、ヒステリー気味の母親はますます人生を嘆き、兄も急に一家を支える責任を負い、更に激しくぶつかり合う。

3人になったが、2人が喧嘩すると1人は止めに入ることができるのは良かった。しかし、2対1の構図ができてしまうと、問題は一気に深刻に。1のほうは家に居場所がない。

振り返ると、ボーイフレンドを吟味することなんかより、当然ながら家族のトラブルのほうが重要な問題。
特に最初のボーイフレンド・リュックは美少年だが子供過ぎて頼りにならない。

大人なら出ていくことも可能だが彼女にはそれができない。母も兄も、家族で仕事をしているだけに、職という選択肢はほぼないに等しい。

根っから悪い人というのがいないだけに、問題が難しい。ただ、一緒になると喧嘩になってしまうというだけ。だから、別々に暮らすしかない。

もう少し、距離の取れる家庭だったら状況は違ったかも知れない。家族で商売をしている家というのは、独自の悩みがあることを知った。

途中、シュザンヌは寝物語に、男といると父がちらつき父が気にいるかどうか考える、と語る。一緒に暮らしていた時からずっと父を希求していたのだろう。態度は正反対だったが。

祝いの夜、兄の娘に対する特別な愛情が明らさまになると、ちょうど父が帰ってくる。当然父もまた娘に特別な愛情を持っていたことを想像させる。
父と兄は冒頭では強い信頼があったはずだが、シュザンヌに関してそして一家の大黒柱としてライバル的関係へと変化している。

お互いへの愛情が強すぎたことも問題の要因だったのかも知れないが、ちょっとしたすれ違いでどの家族に起きてもおかしくない。

父性のあるジャン=ピエールと出会ったことでこの家に新しい風が吹いて、この後彼女と一家には幸せになってほしい。

父役のモーリス・ピアラが、兼監督。『ヴァン・ゴッホ』をつくった人。あれも素晴らしい作品だった。

兄役のドミニク・ベアネールはその後多数の映画に出演、現在はアヌーク・エーメのマネージャーなど大物プロデューサーとしても活躍。

友人マルティーヌ役であるMaïté Maillé は、目鼻立ちがはっきりして大人っぽく、黒がよく似合っている。

母役のEvelyne Kerは、生活に疲れた主婦役だが、童顔で、厚めの前髪と丸い目が美しくキュート。2005年に亡くなったらしい。

ジャン=ピエール役シリル・コラールは、監督としての芽が出たところで
若くして亡くなった。

クラウス・ノミの歌が作品の深みを増している。

前半でみんなが練習している劇はミュッセ『戯れに恋はすまじ』。
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