鹿苑寺と慈照寺

イレイザーヘッドの鹿苑寺と慈照寺のレビュー・感想・評価

イレイザーヘッド(1976年製作の映画)
4.5
【悪夢を見せ続ける89分】

白黒の不気味な映像とまったく繋がりを見い出せない悪夢を流し続ける89分。
意味不明な作品ではあるけれど、メモを取りながら観ていく中で自分なりに解釈したことを下記に書いていこうと思う。

主人公はヘンリーという男。特徴的な髪型をし、特に趣味や生きがいがなさそうな人物。そんなヘンリーに恋人メアリーから家で食事をしようと誘われて行ってみると、メアリーの母親からメアリーが子供を身ごもったから引き取ってくれと言われ、一緒に暮らすことになる。ヘンリーとメアリーの子供は、異形な姿をし、包帯に包まれた胎児のようなものだった。

というのがあらすじ。下記に大量のメモを残しましたが、僕が観た印象としては、この作品のテーマはコンプレックスなのではないかと思う。

冒頭でヘンリーの口から胎児のようなものが飛び出して物語は始まる。
ヘンリーの生活はとにかく無機質。楽しいことも特になさそうで、メアリーと暮らすようになるも育児ノイローゼになり、実家に帰ったことでヘンリーは胎児のようなものと向き合うことになる。

この胎児のようなものがヘンリーのコンプレックスを具現化したものなんだと思う。ヘンリーが家を出ようとすると、泣き出すことからヘンリーと胎児のようなものは同一と考えていいと思う。
1人になったヘンリーは隣の部屋の色っぽい女が鍵をなくしたというので、部屋に泊めることになる。このとき、ヘンリーは胎児のようなものの口を押えて泣くのを止める。ヘンリーは自分自身のコンプレックスを知られたくないから、胎児のようなものの存在を隠したのだろう。
隣の女とセックスするヘンリーは、ベッドが沼と化し、沈んでいく。
すると場面が変わり、特徴的な身なりをした女が劇場でステップを踏みながら歌っている。
女は「天国ではすべてが上手く行く。天国には悩みもない」と歌う。

これは天国に行けば、コンプレックスなんて気にしなくていいからこちらの世界に来なさいという意味だと思う。
この少し前のシーンでもこの女は登場していて、フロアに落ちてくる胎児のようなものを踏みつけるシーンがあったことから、やはり天国に行きさえすれば、コンプレックスから解放されるということだと思う。

フロアに入ってきたヘンリーの首が取れ、そこからなぜか胎児のようなものが生えてくる。首はフロアから沼に沈んでいき、路上に落ちる。ここで地面に落ちた瞬間、首から髪と頭皮が分離していたのも上述したコンプレックスの解放を意味しているのだと思う。なぜなら、ヘンリーの一番のコンプレックスはその特徴的な髪型だから。

ヘンリーは隣の女のことが気になっていて、隣の女が帰ってきたらすぐさま身なりを整え、出ていく。そこには禿げた男の抱き合う隣の女。
ヘンリーが生きていく中で唯一の現実味のある出来事が隣の女との逢瀬。でも、結局それも上手くいかず、隣の女にはヘンリーが頭から胎児のようなものが生えた姿に映っており、コンプレックスに苛まれる。

ラストでヘンリーは胎児のようなものをはさみで貫くが、胎児のようなものは肥大化して自己主張してくる。

少し前のシーンでヘンリーの落ちた首を拾った少年が消しゴムつき鉛筆の工場か何かに持っていき、それを使って大量の消しゴムつき鉛筆を作ってもらい、報酬をもらうシーンがあった。

この作品で僕が受け取ったのは、誰にだって生きている限りはコンプレックスはあるから、受け止めて生きていくしかないんじゃないの?ってことかな。

この解釈で合っているのだろうか。もちろん作品の受け取り方は人それぞれだろうから、これでまったく問題はないんだけど、他の方の感想も聞いてみたい作品でした。
面白かった。


以下は鑑賞中に取ったメモ
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・人間とはグロテスク。自分自身をグロテスクな存在としてなぜ生きているのかわからない男。産み落とされた理由もわからない。
・特にこれといった趣味も生きがいも無さそうなヘンリー=生きる意味が見い出せない=なぜが生まれてきたのかわからない胎児のようなもの

・ヘンリーの口から出てきた胎児のようなものは何?
・レバーを引いている顔が爛れた人は誰?
・メアリーの家の玄関に書かれた2416の数字は?
・メアリーの家に行ったとき、ヘンリーが休暇中と言ったらメアリーが発作を起こしたわけは?
・白黒だからメアリーの母親が何の料理を作ってるのかわかんない
・なんで焼いたチキンが動くの?なんか汁が出てるし。母親は発作を起こし。気にせんでくれじゃないよ。笑

父親「君は何を知ってる?」
ヘンリー「何も知りません」

・母親にメアリーの妊娠を問い詰められたときヘンリーが鼻血を流したわけは?

・ずっと泣き続ける胎児のようなもの。育児ノイローゼになるメアリー。
→実家に帰るメアリー。1日くらいあなたが世話してよ。

・隣に住む女は一体?

・メアリーがいなくなると泣き止む胎児のようなもの。
→体温を計ると37度。急に顔が爛れる胎児のようなもの。

・ヘンリーが家を出ようとすると泣き出す胎児のようなもの。

・劇場でステップを踏む女。上から落ちてくる無数の胎児のようなものを踏みつける。

・メアリーから次々と胎児のようなものを引っ張り出し、壁に投げつけるヘンリー。

・鍵を忘れたの言う隣の家の女がヘンリーの家に入ってくる。
→胎児のようなものの口を塞いで存在を隠そうとするヘンリー。
→自分自身の内面を知られたくないということ?
→性行為に及ぶヘンリーと隣の家の女は抱き合いながらベッドが沼と化し、沈んでいく。
→先ほどの劇場の女が歌う。「天国ではすべてが上手く行く。天国には悩みもない」

・ヘンリーの頭が取れ、そこから胎児のようなものが生えてくる。首からは血が流れている。フロアに落ちた首は沈み、道路に落ちる。頭皮から地面にぶつかった首は髪の毛と頭皮が離脱する。
→魂の解放?死ぬことでコンプレックスから開放されるということ?

・落ちた頭を拾う少年。その頭から消しゴムつきの鉛筆を作ってもらう。大量に消しゴムつき鉛筆が作られる。
→コンプレックスは誰にでもあるということなのか???

・隣の家の女の部屋に行くが、いない。
→誰にでもある一夜限りの逢瀬も実際は幻。そんな誰にでもあるような体験もできない。
→隣の家の女が帰ってきたウキウキのヘンリー。でも、隣の家の女には男がいる。男はただのハゲオヤジ。隣の家の女にはヘンリーが頭から胎児のようなものが生えた姿に見える。
→自己のコンプレックスが他者にはそのように見えているのではないかと考えているヘンリー。
→包帯に包まれた胎児のようなものの体をはさみで貫くヘンリー。

・笑い始める胎児のようなもの
→孤独にコンプレックスに塗れたヘンリーを嘲笑う
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