satoshi

バットマン リターンズのsatoshiのレビュー・感想・評価

バットマン リターンズ(1992年製作の映画)
4.3
【監督強化月間④ ティム・バートン】


 ティム・バートン版『バットマン』2作目。タイトルの「リターンズ」はかの名作「ダークナイト リターンズ」からとった模様。しかし、本作はそれとは何の関係もなく、寧ろ前作よりティム・バートン色が強くなっていた作品でした。

 前作『バットマン』はバットマンとジョーカーという2人の狂人を見せて、バットマンというキャラクターを鮮明にした作品でした。そこでは、バットマンはジョーカーとは紙一重の存在で、違うのは行っている事だけでした。しかし、本作では、善と悪の境が全く無くなっているのです。

 一応、本作の「悪役」はペンギンとキャット・ウーマンです。彼らはティム・バートン映画の登場人物らしく、社会の馴染めない、「はみ出し者」です。キャット・ウーマンは社長秘書として働くも、内気な性格が災いして人生が上手くいっていません。そんな彼女はある出来事からプッツンとキレて、キャット・ウーマンとして暴走を始めます。

 ペンギンはもっと悲惨です。生まれたときからの奇形故に親に捨てられ、ずっと地下のドブで暮らしてきました。本作は彼が捨てられるところから始まり、彼の死を以て終わります。その過程は、自作自演で人気者になるも、信用を失って追放されるという、完全に『シザーハンズ』のそれです。外見もキモいし、本作でティム・バートンが誰に感情移入しているかは明白でしょう。

 この「社会から疎外された2人」がクリスマスに浮かれている奴らに天誅を下すのが本作のクライマックスなのですが、それをさせんとするのはバットマンなわけです。しかし、本作では彼の存在感は非常に薄く、基本的に傍観して、ペンギンをいじめているだけ。しかも、コイツは傍観しているうちにペンギンとキャット・ウーマンに共感しだすという始末。一体、誰が正義なんだ?と、『ダークナイト』以上に哲学的なことを考えてしまいます。まぁ、このバットマンもティム・バートン自身なのですから、共感してしまうのは当然ですね。あの人もこんな社会なんてぶっ壊れちまった方がいいと思ってるだろうし。このように、本作には「常識人」が全く出てこず(アルフレッドが少しだけ出てきますが、脇役です)、どいつもこいつも狂っているため、イケてない奴らがいがみ合っているだけという、非常にカオスな内容となっています。

 このように、本作はティム・バートンの社会への恩讐が前面に出ている作品でした。ただ、このために皆狂った存在になり、「正義って何だっけ?」と首を傾げざるを得ない作品でした。でも、私は好きですよ。
satoshi

satoshi