荒野の狼

地の群れの荒野の狼のレビュー・感想・評価

地の群れ(1970年製作の映画)
5.0
本作は、井上光晴が原作で、1970年の127分の白黒映画。扱われている問題は多岐にわたるが、これが無理なく2時間にまとめられている点も優れている。単なる社会問題提起という作品ではなく、ストーリーは現在と過去を行き来しつつ、異なる複数の事件が扱われていながら、最後はひとつの結末に収斂していく形で、オムニバス形式の謎解きという要素もあり、映画作品として優れている。
冒頭は長崎原爆で被曝した教会跡地を米国のために残さなかったことを含めて、米国の長崎原爆投下の批判を実際の被爆者の写真などを映画に折り込みながら描いていく。映画のストーリーが展開していく中で、佐世保の米軍基地の航空機の騒音などを映画に織り込むことで米軍批判は継続するものの、問題の対象は、在日朝鮮人、被爆者、部落住民に対する差別に焦点が向けられ、特に後二者では、お互いに差別をし合うことからの悲劇をも描かれ扱われる問題は重い。本作の公開から50年以上たった現在でも、本作で描かれる差別は残っており、原爆投下後の数年の時点の社会問題の歴史認識というだけでなく、現在も根強く残る問題として、鑑賞しておきたい作品。
扱われている問題は重いが、本作で虐げられている対象は、被爆した小児にいたるまでであることから、全世代に見て欲しい作品。終盤の緊張感は高く、集団の増悪から、卑怯にも暗闇から集団が一人の人物に投石するシーンは、ホラー映画などを超える恐ろしさで、人の心の闇・集団真理・ヘイトクライムの醜さを無言で表現している。
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