荒澤龍

シンドラーのリストの荒澤龍のネタバレレビュー・内容・結末

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

<あらすじ>
・シンドラーはドイツ人実業家でポーランドでユダヤ人を雇ってる社長。ユダヤ人は人件費が安価であるという理由で雇っていた。使いきれないほどの富を築いたシンドラーだが、その裏に戦争とユダヤ人の迫害があるという二面性にユダヤ人の従業員と接するうちに心を痛め始める。
・ユダヤ人従業員のアウシュビッツ収容所行きを防ぎ、戦争下で人権的な活動をした実話。
・ホロコーストの生々しさと理不尽さをリアルに描き出したスピルバーグ氏の作品。
・当時の模範的な軍人であるアーモンとの対比によりシンドラーの正義感と異端さを描いている。

<印象的だった場面>
・シンドラーのスーツを指差し「シルクのスーツが良い」というアーモンに対して、シンドラーは「仕立て屋はもう生きていないだろう」という皮肉によって返すことで、ユダヤ人のゲットー解体を暗に責めている。
・でもシンドラーも収容されたユダヤ人を「They are mine」と物のように扱っているあたり人道的ではない。というよりは、当時はそれが当たり前の扱い方であり、冒頭にこの台詞を入れることによってシンドラーのその後の人道的な方向へ向かう心境変化を明確にしている。
・「パワーとは人を殺す正当な理由がある時に殺さないことだ」とシンドラーがアーモンへ話す。
それを聞いたアーモンは人々を許しはじめ、最後に鏡の中の自分に「お前を許す」という。これは許せる自分に酔っている演出と自分がこれまでしてきたことへの許しを乞うている、実は弱い人間だが戦争や状況がそうさせているということを暗に示しているのではないか。しかし鏡に指差す自分の爪のささくれに気がつき現実に引き寄せられ結果的にミスした奴隷を射殺してしまう。これは最終的に戦争下で正義を語る綺麗事だけでは生きていけないのだとアーモンは思い至ったという演出である。アーモンは最後まで「ナチス、万歳」と唱え絞首刑となる。
・戦争は人間の最悪の部分を引き出す。平和な時なら彼もいい面しか出ない。

<感想>
・軍人もユダヤ人も、人間は信じたいものしか信じない。人間は心を麻痺させることができる。我々が動物を食す時に何も感じないようになるのと同様だ。でもすべてのものに想いを馳せていられるほど平和な世の中ではない。だから時に「生きていること」や漫然と口にしている「いただきます」という言葉をしっかり捉え直すことを何度も繰り返さなくてはならない。この映画はその機会を与えてくれるものだと思った。
・シンドラーの最後の演説は綺麗事が全くなく心打たれるものがあった。特に軍人に対して戦争が終わった今、「殺人者でなく人間として家族の元へ」帰ってもいい、という場面が印象的だった。みんな生きるために演じさせられている。それは戦争下だけではなく、多分現代でも一緒なのだろう。自分の周りの人間を見る別の視点を与えてくれるという意味でも示唆に富み、素晴らしい映画だった。

<覚書>
・ゲットーとは。
ヨーロッパ各所にユダヤ人が集まって住んでいた地域がもともとあった。ユダヤ人は人種で土地を持っておらず、世界中に点在していたため、ナチス以前から時々迫害を受けていた。舞台となっているワルシャワゲットーはポーランドにあり、ポーランドではユダヤ人の諸権利が認められていたため、そこにゲットーができたという歴史的背景がある。
・ゲットー警察。ユダヤ人の自治組織。ゲットーの開設にあたり警察の設置をドイツ政府が命じた。ゲットー解体では強制収用施設への駆り立てを行なっている。
ゲットーが解体されると彼らも収容施設へ移送されてしまった。
荒澤龍

荒澤龍