人情の積み重ね
黒沢清監督による不思議なヒューマンドラマ。10年もの間昏睡していた主人公。ある日突然目覚め、離れ離れになった家族と再会することで自身の存在価値を見出していくまでの物語。タイトルやポスターを見る限り、てっきり感動モノと思っていましたが実は怖い。善悪の区別がないホラーが一番怖いです。ですがドラマ作品としての完成度はかなり高い。黒沢清監督が多才能の持ち主であることを証明させた一本。
西島秀俊が演じる吉井豊。空白の10年をリアルに演じているからこそ、まだ心は少年であることを体現している。最初は吉井の言動に違和感を感じながらも、最後には同情の意を表してしまう。まだキャリアが浅い時期なのにこの演技力。流石としか言いようがない。
吉井の家の庭にある産業廃棄物のゴミの山。一見、ただ積まれているだけに見えますが、バランスを崩すことなく一つの塊として存在している。本作における、崩壊した家族の絆を再構築しようとする吉井の立場とリンクします。吉井自身も家族が経営していた牧場を立て直そうとし、自身のアイデンティティの在処を探る。破壊から構築、構築から破壊。ラストの呆気なさも「その日は突然来る」ということの現れなのかなと。吉井豊は間違いなく存在していた。
2024.5.11 初鑑賞
