Kuuta

のど自慢のKuutaのレビュー・感想・評価

のど自慢(1999年製作の映画)
3.8
連れてかれたスナックで歌謡曲を歌ったら全く知らんおっさんに「良いねえ」と声掛けられるとか、30手前の自分の経験でも「のど自慢文化」を体感した瞬間はあるなぁと思った。竹中直人に代表される、いかにも邦画なオーバーアクトは気になるし、ひたすらドメスティックな映画だとは思うが…。個人的なカラオケの思い出も蘇って、ツボにハマった作品になった。

宇多丸さんがよく勧めている井筒監督のコメディ。名曲を活かすためにドラマを積み上げる「ボヘミアンラプソディ」にも近い群像劇で、歌謡曲や90年代J-POPが話を引っ張っている。

クライマックスは岡本真夜のtomorrowという、下手な人ならダダ滑り間違いなしの「平成」的展開が見事に成功している。まさかtomorrowに泣かされるとは…。歌い終わった後のコメントにストーリーを凝縮させる、実際の番組を踏襲した構成も良い。

冒頭のあずさ2号で心を掴まれた。あそこは圭介(大友康平)が夢破れたラーメン屋の跡地。TPOと無関係に消費できるポップスの強さを感じる。あずさ2号的な「電車での別れ」はラストで繰り返される。

アメリカのスター誕生や、日本のアイドルオーディションのような、自分の価値を競う番組と対照的に、のど自慢の主役は合否そのもので人生の変わらない一般人だ。

落ちてズッコケて全国の人に笑われたり、勝手なことを言われたりしながらも、舞台を降りた彼らは何かを得て、日常へ帰っていくのだろう。そのプロセスがショーになっていると考えると、オーディションやカラオケバトルと違った形の文化的な厚みというか、豊さがあると思う。

(民放から姿を消した「毎週生放送」「全曲生演奏」というストロングスタイルを金をかけて貫いている点だけでも、公共性のある番組だと思う)

「のど自慢」は最後に本業歌手が出てきて、やっぱりプロは上手いねえなんて我々は呟く。じゃあプロではない我々はなぜ歌うのか。それは歌の巧さを競いたいのではなく、歌いたい気持ちが止められないから。のど自慢のささやかな褒賞は「自分が何者か名乗れる」こと。その本質がストーリーに組み込まれている。75点。
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