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パッションのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

パッション(1982年製作の映画)
3.8
【仕事と快感は表裏一体だ!】
菊川に新しくできた映画館Strangerに行ってきました。今回はジャン=リュック・ゴダール映画『パッション』を観ました。

映画は現実の風景を映すが、「真実」の外側にあるものを映し出せるのか?ゴダールはレンブラントの「夜景」を実写再現する中で、絵画における「本物らしさ」を映画に適用する術を模索する。工場を映し出す。しかし、女性が一生懸命、機械を操っている様子にリアリティはない。ノイズに反して作業者の姿が少ないからだ。また、キレイな服を着た女性が人間味のある挙動をしながら機械を操作しているからだ。これが「本物らしさ」、つまり映っているのは紛れもない仕事をしている様子だが、本物になりきれていない状況といえるだろう。

ここからゴダールは「仕事とは何か?」という問いを立てる、そして仕事と快感は地続きである論を導き出す。仕事とは、絵画のように画の中に押し込められている状況である。テレビの中で、演技が再生、巻き戻しされコントロールされていく様子や、沢山の作業者が仕事をする場を縦横無尽に駆け回る様子を通じて、「仕事」における抑圧した運動、そして解放的な運動から快感を得る様子を紡ぎ出す。

そして影の中にいる経営者は、ニヤッとしながら仕事を楽しんでいるように映し出される。これは自分で事業をコントロールする運動から来る快感であることに気付かされる。つまり、本作はゴダール流ビジネス書ともいえる作品であり、「仕事」と「快感」の差を知ることで、退屈な仕事から逃れられるのではと提唱している。だからこそ、小さなセットの中で絵画的構図から逃れようとする兵士に説得力がある。また、ラストに乗車拒否をする女性が、「これは空飛ぶ絨毯だよ」と説得されることで車へ乗り込む場面は象徴的だといえる。

仕事が持つ抑圧から解放されるには、固定化された概念から解き放たれる必要があるのだと。車を車として認識するのではなく、空飛ぶ絨毯だと認知することで開ける世界があるとこの映画は締めくくるのである。

それにしても、画だけ追っていると車の衝突事故未遂が多発していてクローネンバーグの『クラッシュ』かなと思いました。
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