法政大学2部映画研究会

恐怖分子の法政大学2部映画研究会のレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
4.0
(某部員Y)
クーリンチェに続き、エドワードヤン作品は2本目の鑑賞ですが、期待を裏切らない映画でした。どこまでもスタイリッシュでかっこよかったです。

本作を観て思ったのは、演者の演技力の高さです。というのも、どの演者もあまり表情を変えることなく、無表情で終始台詞を話したり、無言を貫いたりしています。なのに、その無表情からこぼれ落ちる小さな感情の揺れのようなものを観る者に感じさせるのです。その全く無機質な演技で少しずつ日常を逸脱していき、物語が狂っていく様子が静かに、それでいて刺激的に展開されていきます。

無表情な演技だからといって、日本映画にありがちな陰惨でしみったれた、中弛みの映画ではありません。所々に謎のようなものが散りばめられていて、ミステリーの要素があるので、エンタテインメントとしても十分楽しめます。
そして、本作の何がスタイリッシュでかっこいいのかというと、徹底的に音楽を付けなかったり、暴力的なシーンをバイオレンスに描かず、血がビシャっと噴き出ることもなかったり、間と間の説明を排していたりするからだと思います。もちろん計算し尽くされて完璧なシーンばかりですから、もっともっと意図して行われていることはあるはずです。兎に角、監督が独りよがりになって、アート路線に突っ走ってる感もなく、絶妙な仕上がりです。クーリンチェの衝撃を体験していながら、本作を鑑賞して尚こんな気持ちになるとは思ってもみませんでした。