ユースケ

ブレードランナーのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

ブレードランナー(1982年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

遺伝子工学によって造られた肉体と記憶の刷り込みによって造られた感情を持った完璧な人造人間=レプリカント。ホンモノと全く区別がつかないニセモノの存在を知ったレプリカントを狩るブレードランナーのデッカード(ハリソン・フォード)は自分自身もレプリカントなのではないかとアイデンティティが揺らぎ始めてしまう。

原作である【アンドロイドは電気羊の夢を見るか?】の原作者フィリップ・K・ディックを納得させ、サイバー・パンクの代名詞である【ニューロマンサー】を執筆中のウィリアム・ギブスンを愕然とさせた猥雑で混沌とした退廃的な2019年のロサンゼルスのヴィジュアルは、フューチャリスト・デザイナーであるシド・ミードがレトロフィット(古い機械に新しい部品を組み込んで動くようにする事)をコンセプトに作り出した過去と未来、デザインと非デザインが混在するポストモダンなデザインを、稀代のヴィジュアリストであるリドリー・スコットが夜と雨と煙を武器に映像化したもの。そして、それは、リドリー・スコットが目指したダン・オバノンとメビウスが描き上げたバンド・デシネ(フランスの漫画)の傑作【ロング・トゥモロー】の世界そのものだった。

徹底的にリアルに描かれた未来世界を舞台に、フィリップ・K・ディック作品特有のディック感覚=実存的不安を描いた本作は、SF映画の金字塔であり、私のSF映画の原点です。

とにかく、不敵な笑みを浮かべ、造られた者の哀愁を漂わせるレプリカントのリーダー格ロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)の圧倒的な存在感にシビれっぱなし。死を覚悟したロイ・バッティが、仲間の仇であるデッカードを追い詰めるクライマックスの命を賭けた鬼ごっこは必見です。
苦痛と恐怖を経験し、死に近付く事によって次第に感情を取り戻していくデッカードの姿を見ていると、死を目前にしたロイ・バッティが命の尊さをデッカードに説いているように思えてなりませんでした。
「俺は、お前たち人間には信じられないような光景を見てきた。オリオンの肩で燃える宇宙戦艦、タンホイザー・ゲートの闇に輝くCビーム。だが、そんな思い出も時が来ればやがて消える…雨の中の涙のように…その時が来た…」
ルトガー・ハウアーのアドリブが炸裂したロイ・バッティの独白&絶命シーンはお見事。レプリカントか?人間か?なんてどうでもよくなる美しさをその目に焼き付けましょう。

本作のテーマは現実とは何か?人間とは何か?という哲学的なテーマではなく、人生の価値はどう生きるかで決まる(そこには人間もレプリカントも関係ない)というエモーショナルなテーマだと思っています。

今回のレビューは、試写会で使われた【ワークプリント版】に説明不足を補うためにデッカードのナレーションとハッピーエンド化するためにエピローグを追加した【オリジナル公開版】と【オリジナル公開版】でカットされた残酷シーンを復活させた【完全版】のものです。
監督のリドリー・スコットも主演のハリソン・フォードも説明過多で不要だと考えていたナレーションは、初期のコンセプトであるフィルム・ノワールを思わせてアリですが、【シャイニング】のオープニングのアウトテイクを利用した世界観を無視した緑溢れるエピローグはナシです。
エンドクレジットのバックで流れるシンセサイザーの効いたVangelisの【Blade Runner (End Titles) 】は【ブレードランナー 】そのものなのでお聴き逃しなく。

ちなみに、二つで充分なのは丼物の具の魚です。25年間ファンを悩ませてきた答えが収録された【ワークプリント版】をご鑑賞下さい。