南森まち

切腹の南森まちのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.1
井伊家の江戸屋敷に元・福島家臣の浪人が現れ、切腹するため庭を借りたいと申し出るのだが…というお話。

舞台となる家光期は御家取りつぶしが頻繁に行われていた。仕官先を探して江戸に集まった浪人たちの間で横行したゆすりの手段が、この「切腹したい」という申し出だった。各家は大きな問題になることを避けるため、彼らにわずかばかりの金品を与えて帰らせることが多かったのだ。

しかしこの物語は、井伊家の対応と浪人の行動により意外な方へ向かう…。

おどろおどろしいタイトルでちょいグロテスクなシーンもあるが、悲劇としての色合いが強いストーリー。
また、古い映画だが状態が良く音声もきれいに聞こえるし、会話も現代の時代劇と同じレベルなのでとても分かりやすい。
話のテンポも早いのであっという間に見られた。

やるせない悲劇。本当に「悪い人」なんて作品中にはいないのだが、当時の武家社会の価値観ではこうなってしまう。
武家社会、そして現在の日本社会にも通じる「個人への憐憫より、組織の面子を重視する酷さ」がメインテーマになっている。海外からも日本独特の価値観が見られる映画として評価されている。

「生き恥を晒すな」から「生きてこそ」になったのって本当にここ30年くらいですよね。
時代劇好きにはかなりオススメな映画です。