のあ

切腹ののあのレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.2
映画館にて。
上映後に仲代達矢のトークショー付きという贅沢な回のチケットが取れました。

まず、主演の仲代達矢の迫力がおよそ当時30歳とは思えぬすさまじさですね…!
低い声音の語り口、静謐さと激情を併せ持つ目から醸されるどっしりとした存在感。
大坂の陣を経験した武士らしい、実戦的な戦いの表現も素晴らしかったです。

事が次第に明らかになり前半の印象を覆していく展開も素直に面白く、2時間ちょっとが一瞬でした。
切腹というものは『日本のいちばん長い日』や三島の『憂国』なんかの美学っぽいイメージが強かったので、それを真っ向から否定するような描き方も個人的に新鮮でした。
また、想像の及ばぬものへの不理解(あるいは認知自体の欠如)というのは現代社会にも通ずるかもなぁと。

三國連太郎、丹羽哲郎などの脇を固める名優達もさすがで、隙のない名作になっていると思います。


以下トークショーの覚え書き。
思い出した順に書き出したので順番ぐちゃぐちゃですが、ご容赦ください。
・三國連太郎と二人で稽古をした。どう演じたらいいか聞いて三國の言う通りにしたら上手くいったこともあった。「それは違う。俺はお前がこういう演技をやると思って考えてる」と言われて、「じゃあ僕も三國さんがこういう演技をやると思って考えてます」と言おうかなと思ったりもした。
・中村錦之助に殺陣をどうやったら良いかを聞いたら、「かかってくるやつを斬るだけだ」と言われた。
・丹羽哲郎との決闘シーンは真剣で行った。怖いと言ったところ、「精神異常か?」と聞かれ、「違います」と答えたら「じゃあ斬らないから安心しろ」と言われた。
・ローレンス・オリヴィエが好きで、発声の参考にした。『切腹』では、高中低のうち低の発声。
・今でもビール、日本酒2合に焼酎を飲んでいる。撮影当時も一升瓶を4本空けて宿に帰っても閉まっていて入れず、玄関先で夜を明かしたことがある。朝になって驚いた小林監督が「今日はあのシーンはやめておくか?歩くだけのシーンにしよう」と言った。
・俳優座所属だったため、東宝や松竹所属の俳優たちと違って色々な作品に出ることができた。当て書きがない分、"自"から離れた"他"の役を演じられて楽しかった。『人斬り』の武市半平太は全く自分にはないものだった。悪いやつだけど美しい。
・勝新太郎とは仲が良く、よく飲み歩いた。勝新太郎はもともと三味線を弾くので歌が上手く、キャバレーなどで聞かされた。
・『切腹』はカンヌでグランプリを取るかと思っていたが、ヴィスコンティの『山猫』に取られてしまった。勝新太郎の代役として出た『影武者』は、日本では「やっぱり仲代の役は勝新太郎(がやるべき)だった」と言われてがっくりしていたが、カンヌでグランプリが取れて良かった。
・舞台ではかぶりつきのお客さんにも最後列のお客さんにも届けなくてはいけない。「好きだ」などのような台詞だと叫ぶのもおかしい。響かせるような発声をするので、腹式呼吸が大事。毎日腹式呼吸の練習はしている。役者はその作品で何を言いたいのかをわかって芝居をしなくちゃいけないと俳優座時代に教えられた。
・『人間革命』で日蓮を演じたとき、一般の人が見学に来て拝まれた。拝まれたのは初めてだった。
・『人間革命』の丹羽哲郎の演技は素晴らしかった。丹羽哲郎に声をかけられて出演を決めた。
・『上意討ち』は元々は役がなかった。
・『切腹』は『人間の条件』と同じスタッフ。撮影の宮島義勇さんに「もう5年もお前を撮っている。これ以上お前の顔をどうやって撮ったらいいんだ」と言われた。映画は役者も大事だが、それ以上に優れたスタッフが大事。
・橋本忍は歌舞伎や能などの古典芸能に精通しているので、台詞がちゃんとしていて、時代劇に慣れていない新劇の俳優の自分でもちゃんとした形になった。
・一番初めに俳優座でもらった役は19歳の時に80歳の役。もうすぐ91歳になる。もう少し役者をやろうと思う。
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