SANKOU

水の中のナイフのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

水の中のナイフ(1962年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

ロマン・ポランスキー監督の長編デビュー作。
ヨットの上で男二人に女一人の構図は『太陽がいっぱい』を思い出させるが、この作品も同様に事件の匂いを感じさせる不穏な作品だ。
ただ、そこまで大きなドラマの展開はない。
ストーリーだけを追えば正直面白い映画ではないが、色々と象徴的な意味のありそうな作品だと感じた。
裕福ではあるがどこか倦怠期を思わせるアンジェイとクリスティーナの夫婦。
週末恒例のヨット遊びのために車を走らせるが、車内では特に会話らしいものはない。
危なっかしいクリスティーナに代わりアンジェイが車を発進させると、ヒッチハイカーの青年が現れ車の真正面に立ち塞がる。
青年の無謀な行動に激怒するアンジェイだが、何故か彼は青年を車に乗せる。
ばかりかヨットにも同乗するように彼を誘う。
アンジェイは青年に対するクリスティーナの柔和な態度が気に入らなかったのだろうが、だからなのか逆に青年を受け入れ、彼に対してマウントを取ろうとする。
ヨットに関しては素人の青年に、偉そうな口振りで指図をし、優越感に浸るアンジェイ。
その姿をクリスティーナに見せつけることも彼の狙いではあるようだ。
一方青年が彼の誘いに乗った理由はよく分からない。
おそらく彼はヒッチハイカーではあるが、特に時間にもお金にも困っているわけではないのだろう。
クリスティーナの美しさに惹かれたわけでもないと思うが、好奇心にかられてアンジェイの誘いを受けたのかもしれない。
ヨットの上では時折険悪なムードになるが、アンジェイもクリスティーナも青年もこのバカンスを楽しんではいるようだ。
この映画で象徴的なのが青年が持つナイフだ。
彼はそれをとても大事そうに扱う。
ナイフは実用的な道具ではあるが、人を殺傷することも出来る危険なものでもある。
この青年が大事そうに身につけるナイフを、アンジェイはこっそり懐に隠してしまう。
凪のように穏やかに見える三人の関係も、突然起こる海上の嵐のように、きっかけがあればいつでも大荒れになる恐れはあった。
アンジェイはナイフを海に落としてしまう。
そして突っ掛かってきた青年も海に投げ飛ばす。
青年は泳ぐことが出来ないと言っていた。
浮かんでくる気配のない青年を気づかいクリスティーナは海に飛び込むが、青年は見つからない。
人殺しとクリスティーナに詰られたことで、アンジェイは気分を害し、海に飛び込んで泳いで岸まで帰ってしまう。
しかし青年はブイの陰に隠れていただけだった。
青年はヨットの上でクリスティーナと関係を持ってしまう。
そして艀に戻る前にクリスティーナの助言により、ヨットを降りて彼女に別れを告げる。
ラストの展開は秀逸だった。
アンジェイは警察に行き、自首することをクリスティーナに告げるが、クリスティーナは青年は隠れていただけだったと話す。
そして自分は彼と寝てしまったとも。
しかし彼は彼女の口から語られる真実を認めたくない。
最後は警察署に通じる道を選ぶか、家に帰る道を選ぶか、分岐点に車が立ち止まる場面で映画は終わる。
ナイフはヨットの上ではとても異質な存在だが、青年の存在自体がこの映画の中では異物だったのかもしれない。
そういえば最後まで青年の名前は明かされない。
ヨットを扱うアンジェイとクリスティーナの手際の良さがリアルで感心させられてしまった。
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