不在

クローズ・アップの不在のレビュー・感想・評価

クローズ・アップ(1990年製作の映画)
5.0
こんな映画は恐らく他に存在しないだろう。
なんと実際に起きた事件の被害者と加害者に、当時の事を再現させて撮られているのだ。
本物の裁判を収録したシーンもある。
つまり作中で語られる事の全てが真実だ。
出演してる人間が、脚本も演出もされていない本当の事を話しているのだ。
しかしドキュメンタリーではない。
「嘘のない映画」という矛盾した存在だ。

加害者のサブジアンは、自身の虚栄心、映画監督が陥りやすい傲慢や欺瞞、映画芸術の在り方や人の許しなど、人間や映画についてよく理解している。
ただ一つ彼が分かっていなかった点は、誰かを演じる為には、まずは自分を上手く演じなければならないという事。
演技とは人間の内から発せられるエネルギーだ。
その内面が揺らいでいれば、他人を演じることなど出来ない。
人間とは一番簡単な事が、時に一番分からなくなるものだ。

映画という芸術が、人類にもたらすものとは。
この作品はこの問いにある種現実的な答えを提示している。
不在

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