このレビューはネタバレを含みます
富士丸役の松重豊は元関取には見えず、おそらく何かの道具を使って背の高さや身体の厚みを増している。その人工性も含めて不気味だ。
給湯室の分厚いビニールカーテン、資料室に続く鉄の扉と、黒沢清のシグナチャー小道具を確認。
富士丸から生き延びて、これから久野真紀子と長谷川初範のロマンスが始まるのかと思ったら、最後に初範は突然登場した洞口依子演じる妻と子どもの元へ戻る。そのとき公園へ通じる円形の階段を登る久野の姿と、車の前で抱き合う家族の姿を併置するのだが、なにか古いフランス映画で観たことがあるような構図だ。
美術商を舞台にした作品なので、ルドンやピカソといった名前が飛び交う。ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』が効果的に使われている。