ピンクマン

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!のピンクマンのレビュー・感想・評価

4.5
本作品の冒頭。抜群な能力と生真面目な性格で卓越した業績をあげている主人公の警官は、ある日突然田舎町に左遷を命じられる。辞令に納得できない主人公に上司たちは真顔で言う。「君があまり優秀だと我々が無能にみえるから迷惑なんだよ」主人公は毅然として上司に刃向かう。「あなた方がそんなことをしたら僕の同僚たちが黙ってない!」颯爽と部屋を振り返ると、同僚たちは、「さようならニコラス、行ってらっしゃい」という。横断幕を掲げて、みんな万遍の笑みを浮かべている。

マジで面白い。面白すぎる。人間のドロドロした性をこんなに爽やかに笑いに変えるとは。

このご時世に政治家や大企業を風刺したり攻撃することに反骨精神を感じるか?そんなのは腐るほど巷にあふれてる。むしろもう超大多数のマジョリティである。みんながやってることをやるのは反骨ではない。誰もが恐れて反抗しないものに反抗するのが反骨精神だ。では現代社会において誰も反抗できない権力者とは誰だろうか?

現代の平和な先進国において、権力を濫用して個人の尊厳を踏み潰すのは独裁者ではない。「大衆ファシズム」だ。独裁者としての特定の個人が存在しなくても、均質的な集団というのはファシズムのように横暴だ。並外れて突出する人を寄ってたかって叩き潰す。集団で共有する価値基準に従わない人を排除する。わかりやすい例が「いじめ」「村八分」「魔女狩り」。これらは特定の独裁的な個人によるものではなく、「右向け右」的行動に流れる集団が加害者になる。今や政治家や大企業は常に批判に曝されている「ある意味の弱者」。叩いても叩き返してこないから誰でも簡単に批判することができる。ところが「本当の絶対権力者」である大衆には誰も逆らわない。大衆を敵にまわすことほど、勇気が必要なことなど無いのだ。

他の作品にはない本作品の特別な面白さは、そんな絶対的な権力者であり暴君である「大衆ファシズム」を相手どって、風刺し攻撃している所にある。これこそ、本当の「勇敢さ」だ。この人間社会の本質に対する洞察力と、表層ではなく深遠をえぐるような反逆精神を懐にひそめ、アホみたいに大はしゃぎして遊び倒すブラックな芸風はとても刺激的である。

本作で主人公たちが戦う相手は他の映画では制裁を加えられる姿を見たことがない相手だ。大衆との壮絶で爽快な、カタルシスMAXの愉快な銃撃戦は、控えめに言って最高。ブラックコメディの傑作。
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