よ

蜘蛛の瞳/修羅の狼 蜘蛛の瞳のよのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

哀川翔とダンカンが公園のベンチに腰を掛けながら談笑する場面、ダンカンが空き缶をゴミ箱に向かい投擲するも、中には入らず虚しく地面にぶつかる音が響くショットが2回ある。また、気分転換に社員たちで釣りへと赴く場面、哀川翔のルアーに何かが掛かった手応えを覚えるも、いざ正体を確認するとそれが長靴であることが判明する。呆れたダンカンは長靴を再び湖に投げ捨て、それを見た阿部サダヲは「沈んでいきますねえ」と口にする。何をやっても満たされないどん詰まり感や先の不穏さをさりげなく醸成している良シーンだと思う。

また、公園のシークエンスや、歩道を進む哀川翔に車窓からおちょくるように話しかける大杉漣のシークエンスに顕著だが、本作はカメラの横移動が気持ちいい映画でもある。ただし、フレームは一定の方向へのみ決まったように動くのではなく、登場人物の覚束無い足取りや挙措に合わせて都度進んだり戻ったり、止まったりを繰り返す。この落ち着かなさがなんだか笑えるし、不安定な感を常に意識から拭えず、気持ち悪さが付きまとっていた。
加えて、布を被せた木の杭が登場人物を監視するように、後方で不気味に佇むショットが劇中に幾度か登場するが、最後の最後に、それすらも実態のないものであることが明かされる。このどこまでも哀しい物語が俺は黒沢清の映画で一番レベルに好きかもしれない。
死生観や過程の省略は『ソナチネ』『HANA-BI』あたりの北野映画から影響を受けているように感じた。
よ