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選挙のarchのレビュー・感想・評価

選挙(2006年製作の映画)
5.0
想田監督の観察映画一作目。
超面白い。2005年自民党から市議会議員補欠選挙にハッキリと凡人な山内和彦が巻き込まれ、当選するまでの流れを撮ったドキュメンタリー。
山内和彦という男が「選挙」に巻き込まれ順応していく様が異様に恐ろしい。タイトル前、最初の引きのショットが山内和彦のボンクラ加減、選挙と投票権を持つだろう大人の距離感を端的に表していて見事なのだが、そこから彼が"選挙慣れ"していく様が恐ろしい。それは彼にとって努力であり、成長ともいえるかもしれないが、それは「選挙」というゲームの形骸化した実態を晒す他ない。彼は会う人会う人に挨拶をし、中身のない抽象的で耳触りのいい「マニュフェスト」をつらつらと挙げる。彼がその"ゲーム"に慣れてしまい、人が人でなく見えてしまっているような機械的な印象を受けた。それは妻との会話の中にも表れる。家内という言葉を使う理由が、夫のギャグの為だったりを皮切りに、最終的には子供を産め、仕事をやめろに流れていき、山内和彦の付属品として、扱われていく様子が撮られている。
それを良しとしてしまう彼の器の小ささ、大きな"ゲーム"のルールに完全に回収されてしまった男の姿に恐怖した。

だがしかし彼もまた、被害者(彼にとってその自覚はなく、ドキュメンタリーを見る人の視点)でしかなく、彼の傀儡っぷりが惨たらしく描かれる。彼の選挙とは名ばかりな第一党争の数合わせ、本人含めてそのことをわかった上で行われる票集めゲームは、最後の「先生って呼ぶの?笑」みたいな全くリスペクトのない最後の万歳シーンに表される。

体育会系的なノリも見事に地獄を顕現させていて、マジ辛い映画体験のひとつであった。そういう奴らがやっぱ上にいるんだなぁというのが鬱になる。

合間合間で、想田監督のいう"映像的翻訳"(ドキュメンタリー内の即興演出)がなされているシーンがあり、痺れる。
冒頭の部分は前述した通り、車の外に貼られまくっているポスターを映る度にフォーカスしたり、後半異様に増える山内和彦以外の場面は彼の傀儡感を強め、1時間半経ち、ようやく見せる我が家のインパクトも凄く、構成も素晴らしい。
出てくる投票権を持つ人々すらもその"ゲーム"に興じてポジションに酔ってる感じも含めて、選挙ってクソだなぁと思わされました。
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