『アノーラ』で見た冬のブライトンビーチの風景が良かったので、同じ舞台の本作を鑑賞。雑多な移民街や寂しい海辺の風景が荒涼とした物語の雰囲気によく合っている。
道を踏み外して街を出た兄が帰ってきた。父親は彼を拒絶して家に入れないが、弟は慕って密かに会う。一緒にホットドッグを食べたり映画に連れて行ってくれたりと、十代の少年にとって歳の離れた兄というのは無条件で頼れる憧れの者なのだという感じが伝わってくる。
母と弟に会い、兄は束の間の家族の時間を過ごす。しかし全ては静かに確実に崩壊に向かっていく。殺人の場面が淡々と乾いたタッチで描かれて虚無感に満ちている。希望を抱いて移民としてやって来たのに、もうこの街にも居場所はない。父の愛はいつしか「お前の逃げる場所はない」という呪いになっていた。聖歌の響きは美しいが、救いはなかった。
若きエドワード・ファーロングの儚さがたまらなく良い。