さえちか

Awayのさえちかのレビュー・感想・評価

Away(2019年製作の映画)
4.1
すごく良いロードムービーだった。絶望の世界を旅する物語、なのに、若い頃にバイクで旅した記憶を直撃して自分も走っているような爽快な映画だった。
少年は不安も恐怖も抱えて走っているはずだが、それでも心の中でこう呼びかけずにいられなかった「バイクで旅するって楽しいよね!」と。森、草原、山々、鏡のような湖、見上げれば自由に羽ばたく鳥たち。青空の下で360度の絶景を全身で感じて疾走する喜びをライダーは知るのだ。辛い旅でも、そんな高揚感あふれる瞬間が少年にもあったはずだ。
きっと少年もバイクという乗り物に頼もしさを感じて走っていたと思う。生死をかけた旅とただの観光ツーリングでは深刻度は全然違うが、例えば北海道の原生林や四国山中の断崖絶壁を走りながらとんでもない所に来ちゃったなと少し不安になっても、エンジンの鼓動さえ体に感じていれば絶対大丈夫という信頼や自信のようなものが人馬一体となった自分には湧いてきた。少年のバイクも、こいつなら絶対に目的地まで連れて行ってくれるという力強さで大地を蹴って進んでくれるのだ。
雪の斜面を上り下りできたりしてバイクは魔法の乗り物めいているが、鳥が相棒になるメルヘンチックな作品だし、この絵柄のアニメならいいのかもしれない。しかし絵がデフォルメされてる割には、初めて乗ってコケた後に8の字を練習して乗りこなせるようになるとか、音で表現した走り出しのシフトチェンジのタイミングとか、演出が細かくて感心するところもあった。キーをひねり単気筒の鼓動に胸が高まる瞬間をこの監督も知っているに違いない(キックスタートのほうが風情があるけど作画が大変だからセルスタートにしたのかなと野暮なことを思ったりもした)。
道端で一斉になびく花々や、行く手に現れる廃墟や朽ちた橋や、野宿で見上げる星空や、惨めな気持ちになる雨宿りさえも、かつて旅で経験したものに似ていて心を掴まれた。こんなに引き込まれる作品を一人で作るんだからすごいアニメ監督がいるものだと驚いた。
同監督の『Flow』公開を記念したリバイバル上映で鑑賞。大きなスクリーンと映画館の音響のおかげでより没入できたと思う。
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