てる

アラバマ物語のてるのレビュー・感想・評価

アラバマ物語(1962年製作の映画)
4.3

この作品はジャンル分けはできない。一番大きいのはリーガルだが、それ以外にもドラマ、サスペンス、青春様々な要素が含まれている。

始めは子どもと気の毒な男との絆が生むヒューマンストーリーかと思ったが、ブーが出てくるのはだいぶ後半で、しかも、中々、衝撃的な登場であった。
やはり多くの割合を占めるのは、裁判だろうか。罪のない誠実な黒人の青年を、差別にまみれた陪審員が裁く。陪審員裁判っていうのは、冤罪を有罪にしてしまうような、事実を容易にねじ曲げてしまう制度だったのか。なんて理不尽な制度なのだろうかと愕然とした。
しかし、その描かれている裁判もこの作品ではほんの一部にすぎない。お父さんが黒人の弁護士をしているというのは語られているが、詳しく語られるのは、法廷でのシーンのみだ。

この作品は様々な差別を子どもの目線で見せるという趣旨の作品なのだ。
気の毒な男を卑下し差別する大人や子ども、貧しい家の子どもを差別する子ども、黒人を悪意を持って差別する村の人々、その弁護をする弁護士を差別する村の人々。

子どもはとても純粋だ。
その子どもからの目線はときに辛辣であり、ときに優しい。
見たこともない気の毒な男をバカにし、貧しい家の子どもの食べ方をバカにする。ただ、それも子どもならではの柔軟性により容易に裏返る。気の毒な男は気の毒ではなく優しい男であって、貧しい家の子どもは友達になれる。
幼い彼女の目には差別する大人が不可解に見えている。
なぜイジワルをするの? 悪いことはしていないのに。
それは黒人の使用人に躾られた言葉なのだ。
友達でしょ? 仲良くしなさい。
子どもにはそれで伝わるのに大人にはそれでは通じないのだ。
彼女の純粋さに、大人たちは何も返す言葉が見つけられず、退くしか術がなかった。

黒人に対する人種差別はこの当時よりもなくなっているとは思う。だけど、差別や偏見はどの時代にも共通する話しだ。この作品はそれを厳しくも温かく描いている。とてもいい作品であった。

ただ、なんで邦題が『アラバマ物語』なんだろうか。原題は『To Kill a Mockingbird』なのに。もう少し真面目にタイトルに向き合うべきでは?
アラバマ物語じゃなんにも伝わらないと思うよ。
てる

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