てる

ゲキ×シネ「メタルマクベス」のてるのレビュー・感想・評価

4.2

宮藤官九郎ワールド炸裂。
ていうほどでもなかったか。面白かったのは間違いないのだけど、ちょっとコメディの描写が多すぎる気がする。
でも、コメディが少なくなると、かなりきつい内容になってしまうのはわかる。そうならないように、丁寧に物語を進めているのだろう。

『マクベス』を読んだのは随分前なので、内容は完全に忘れている。なので、新鮮な気持ちで観れた。でも、原作を熟知した上で観たなら、感想にもっと厚みがあったのは確かだ。そういった意味ではすこし残念ではある。

暗い話だよね。君主を手にかけ、王になるも、復讐される話し。
信念のない殺しは無意味なのだ。王になりたいと強く願っていたなら、結果は全然違っていたのだ。そもそもランダムには王になりたいという想いもなかったのに、妻に言われるがままにことを成してしまった。唆した妻も出世欲に目が眩んでいただけで、ランダムを王に据えたあとのビジョンを何も描いていなかった。そうなってしまっては当然未来は見えている。彼らは復讐され、死に行く運命なのだ。
戦争屋に政治は出来ないし、ランダムも信念があるわけではなかった。どのような国を作りたいという想いが彼にはなかった。彼は身に余る地位を手に入れ、その地位にしがみつくことにしか頭が回らなくなっていた。

大いなる力には大いなる責任が伴う。

ランダムもその妻も一国の大いなる責任を負いきれなかった。自らの器量よりも大きなものに手を出してはいけないのだ。
それに、その権力を手にいれる方法も悪かった。無理矢理奪ってしまったのだ。人の道を外れた者はまともな死に方は出来ない。因果応報で彼らはその報いを受けることになってしまった。
何とも悲しい結末である。

それにしても、今回は主役2人のお芝居が凄まじかった。ほとんどでずっぱりだったし、曲も何曲も歌っていた。一部の隙もない繊細な芝居をしているその顔には常に玉の汗が光っていた。その汗を見る度にこちらがひきつってしまいそうになる。一公演でどれだけのカロリーを消化するのだろうか。
特に内野聖陽はとても大変だったはずだ。コメディ要素が多いこの舞台で、彼は常に鬱々とした芝居を続けなければならなかった。彼の芝居がこの作品の胆であった。
そして、そのタイトル通り、メタルを歌い続けていた。正直上手いかどうかはわからないけど、彼の見た目は正に、ロックバンドのそれであった。カッコ良かった。ビジュアルが大切なバンドマンを彼は難なくこなしていた。内野聖陽ってイケメンだったんだなぁと感じさせられた。

そして、松たか子。まだ20代であった松たか子はとにかく可憐だった。とにかく可愛くて美人だった。水を弾くようなピチピチな玉のお肌のお顔には、とてつもなく強い意思が込められた目が爛々と輝いていた。若さ溢れるパワフルなお芝居なんだけど、でも、確かに技術も感じられた。
最後の飛び降りる前の表情ははっとさせられるものがあった。狂気に犯されている目だった。あの目は平気で命を絶っていても不思議ではない目であった。役者ってすごい。

やっぱり舞台っていい。もちろんゲキシネは編集されている。だけど、役者の生の芝居を観れる。生の芝居がそこにある。役者の魂が込められた本気の芝居がそこにはある。
テレビや映画では味わえない面白味がある。
やっぱり生で観に行きたいなぁ。
てる

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