天豆てんまめ

黄昏の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

黄昏(1981年製作の映画)
3.9
楽しみなアカデミー賞受賞式が近づいてきているけれど、この映画ほどアカデミー賞を巡る縁が深い映画はなかなかない。

物語はシンプルだ。元大学教授のノーマンと妻が過ごしている湖畔の山荘に、ひとり娘のチェルシーが恋人とその息子を連れて訪ねてくる。父80歳の誕生日に。父と娘の関係は最悪。頑固で皮肉屋の父は娘を子供扱いで、お互いがお互いを長年受け入れられない。そんな2人を見守る妻。そんな父と娘が和解するまでのひと夏の湖畔の物語が淡々と描かれている。風景が美しく、ぼんやり眺めていて沁みてくる。

父をヘンリー・フォンダ。母をキャサリンヘップバーン。娘がジェーン・フォンダ。まさしく伝説の布陣。

当時既にアカデミー賞主演女優賞を3度受賞(「勝利の朝」「招かれざる客」「冬のライオン」)していたキャサリン・ヘップバーンの晩年の名演技が素晴らしい。彼女はこの映画でずっと小刻みに頭が揺れているが、高齢の女性の老いが何ともリアル。この作品のもう一つのテーマ、老いと死を受け入れる心地よい時間にもなる。

しかし一番はヘンリー・フォンダとジェーン・フォンダという実生活でもずっと断絶していた2人が演じている妙。台詞や佇まい、葛藤の深さのリアルなこと。。

ちなみにヘンリー・フォンダの妻はその昔自殺している。母の自殺の原因は父にあるとジェーン・フォンダは信じていて、彼女は父親を拒否し続けながら、バーバレラでセクシー路線で名を馳せつつ、一方でベトナム反戦運動に身を投じたり、ワークアウトの女王になったり、凄まじい多方面エネルギーで活動。しかも彼女は「コールガール」と「帰郷」で2度もアカデミー主演女優賞しているという凄み。そんな彼女が映画化権を買い取り、長年断絶していた父の為に作ったのがこの映画。

ヘンリー・フォンダは名優と言われていたが名誉賞以外アカデミー賞とは無縁だったけどこの映画で見事キャサリン・ヘップバーンと共にアカデミー主演男優賞、主演女優賞を揃って受賞した。

でも2人とも受賞式には現れなかった。当日ヘンリーフォンダは病床にあって、代わりにオスカー像を手にしたのはジェーンフォンダだった。「私は本当に幸せ。お父さんを心から誇りに思います」とスピーチ。できすぎな感動シーンを世界中が見守った。その5ヶ月後にヘンリーフォンダは心筋梗塞で亡くなった。

一方、キャサリン・ヘップバーンは史上最多4度目の主演女優賞。彼女は受賞式に出席しない主義だった。プレゼンターで一度だけ。

受賞した翌朝ジェーン・フォンダがお祝いの電話をかけると、第一声が「これでもうあなたに追いつかれることはないわね」というものだったらしい 笑 さすがアカデミー賞の女王。

さあ、今年の2月10日。アカデミー賞受賞式ではどんなドラマが起きるのか。

私が先ほどひっそり休暇を申請したのはここだけの秘密だ 笑