くりふ

ギルダのくりふのレビュー・感想・評価

ギルダ(1946年製作の映画)
3.5
【私にもオペラグローブください】

本作は、映画そのものより、リタ・ヘイワースさん演じるギルダという女が、映画史やメディアの中で、一人歩きしている感じがします。

それだけ彼女は魅力的なのでしょうが、映画そのものは、どうだろ?フィルム・ノワールの一本ですが、キレとコク、ちょち薄いのではと思います。

リタさん本人には、「聖域」とも違うのですが、誰も踏み込めない、無菌室みたいな空間を抱えている印象があります。それが浄化作用を起こして、性的な匂いを消している感じがするのです。エロティックでも、どこか清涼。だから、モンロー以前のセックス・シンボルと言われても、私はピンと来ません。

最近、興味深かったのが、マイコー『THIS IS IT』にギルダが登場したこと。あの有名な、黒いオペラグローブを脱ぎ捨てるシーンで、受取るのがマイコー。セックス・シンボルから程遠い彼が、ギルダを相手役にしたのは、そんな無菌域?に感応したからじゃないかなあ、なんて勝手に茫洋と、思ったのでありました。

しかし、無菌域? は、ある種の男にとっては支配欲を刺激するのでしょうね。先日、リタさんのドキュメンタリーをみたのですが、そういう種の男とばかり、結婚しては別れて、を繰り返していた印象を受けました。

乱暴な言い方ですが。ギルダの人物像には、そんな本人の資質とダブっている不思議さを感じます。映画史に残る女性(偶)像を獲得したのは、そんな現実からの援護もあったのでは。

平坦に進む物語の中、ギルダだけはどこか、演出を超えたような、生々しく痛みある存在感、を孕んでいますね。それでもやっぱり涼しいんですが。単純に歌うから生っぽい、ということもあるでしょうが(歌は吹替えですけど)。

何はなくとも、一度聞いたら口ずさみたくなる「Put Blame On Mame」は名品です。ぜひ、あのシーンこそ3D化して、観客に向かって黒く長いオペラグローブを、ゆっくり脱いで、投げて欲しいものです。思わず手で受けたくなるような。

なんちゃってファム・ファタールの、意外と身近なお悩み物語。そして出てくる男女の器が案外小さい、というのが拍子抜けではありましたが、ギルダよければ、まあ全てよし(笑)。

あ、そういえばギルダ、ショーシャンク刑務所にも慰問に行ってましたよね。

<2010.3.23記>
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