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悲愁物語のkaomatsuのレビュー・感想・評価

悲愁物語(1977年製作の映画)
3.5
梶原一騎原作、鈴木清順監督による、かなりセンセーショナルでトンデモな、スポ根+お色気+禁断の恋+ストーカー+業界批判モノ(?)。

競合他社の専属タレント人気に対抗するため、プロゴルファーの桜庭れい子(白木葉子)を自社の人気タレントに仕立てようと動く、とある企業のコーディネーター(岡田眞澄)と、れい子の愛人にしてゴルフ雑誌の編集長(原田芳雄)との奇妙な関係。そして、大スターとなったれい子を執拗にストーキングし、コントロールしようとする近所の主婦(江波杏子)。また、れい子に密かな禁断の恋心を抱く、歳の離れた弟(水野哲)の存在。さらに、嫉妬と羨望が入り混じり、れい子の家に集団訪問した挙げ句、やりたい放題の厚かましい近所の主婦たち…全体的に支離滅裂なようで、これぞ清順ワールドの極みと思えなくもないような、実に不思議な作品だ。

日活時代に監督した『殺しの烙印』から10年後、鈴木清順監督の松竹における本作だが、のちの代表作『ツィゴイネルワイゼン』にみられるような、妖艶な大正ロマン的な要素は皆無で、あくまでも現世利益的なエゴを求める人間たちの、ゲスい本性ばかりに焦点を当てている。特に、れい子を意のままにコントロールしようとする江波杏子さんのストーカーぶりは、ほとんどホラー。そして、大スターが近所に住んでいることを聞き付けて、れい子宅に主婦がぞろぞろ押し入り、飲めや踊れやのやりたい放題の挙げ句、れい子本人はそっちのけで、みな夢から醒めたように一斉に帰っていくシーンは、一時の熱に浮かされたミーハー人間の群集行動を鋭くデフォルメしているようで、グロテスクな怖さがある。ただ、肝心の桜庭れい子がロボットみたいで、人間的な魅力が感じられなかったのが気になるが、鈴木清順監督の狙いによるものだったのだろうか。

余談だが、出番は少ないものの、本作のカギを握る、れい子に禁断の恋心を寄せる弟を演じた水野哲さんは、当時は劇団若草所属で、古くはTBSの人気ドラマ「ありがとう」の看護婦編で、児玉清さんの息子役を好演した子役スターだ。「太陽にほえろ!」やNHK大河ドラマ、その他多数出演し、杉村春子さんや池内淳子さん、渥美清さんら錚々たる大スターと共演した輝かしい芸歴を持つ。個人的な話で恐縮だが、水野さんはその後ロックバンドでヴォーカリストとして活躍し、約半年間だけ、私と共にバンド活動をしていた時期がある。共にライヴをやったのは4~5回だけで、お互いの都合で袂を分かつこととなったが、水野さんがかつての名子役だったことを一言も言わず、私と同じようにアマチュアのミュージシャンとして共に歩もうとしていたことは、後から知ったことだが、敬意を表したい。本作では小学6年生くらいだろうか、派手さはないけれど、すでにベテラン子役の風格を感じる。
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