定期的に観たくなるジャン・ルノワール。色彩の豊かさと細やかな人情、賢者の大岡裁きに加えて現実的な苦い選択があり、バランスの良さが好み。これはアメリカに渡っての1作目で実にアメリカンな作品だった。
南部の密林の湿地帯を舞台に、湿地に隠れて長年暮らしている逃亡した死刑囚との友情、恋愛、親子愛を描いている。
ジャケはカラーだが、1940年のモノクロ映像。舞台のオケフェノーキ湿地は、入ったら出て来れないと言われている、ワニやピューマ等が生息する手付かずの危険な密林。ジョージアとフロリダにまたがったこの広大な沼沢地帯は国立自然公園で、承諾を得て現地で撮影したと但し書きがあった。
それなので、なかなか緊張感ある映像だった。ワニが、蛇がリアルに登場する。
犬が湿地で迷子になる😱。もうそれだけで緊張が走る。見つかった後も、何度も小舟で密林の奥に犬連れて行くものだから、ずっと緊張させられた。
猫も!と思ったんだけど、話だけで何事もなく安堵。
逃亡犯が人を信用しない、厳しいサバイバーで、友達と言いつつ最後の最後まで疑う。
ルノワールらしくないと言われている作品。それほど数観ていないが、今回感じたのは、実にアメリカンテイストだったこと。ルノワールはその国の文化をその国の公式に合わせて作っているように感じる。
『黄金の馬車』ではイタリア女性がペルーでスペイン公使やマタドールと恋愛を繰り広げる際に、女性は男性を煽るのに、キスシーンもなければ、ただ男性を振り回すだけで、スペインの情熱的な踊りを見せられているような、でいて、イタリアの貞淑な女性で家庭的だったりする。
『フレンチカンカン』は恋多きジゴロと熱烈なシーンがある。
本作は男女の絡みはまんまアメリカン。二人が抱き合う画は頬寄せて手を取り合い、どこかで観たことのある絵。父親と息子の親子愛の表しかた、焼きもち妬く女性が男性の秘密をペロッと話したり、集団で真面目な主役をリンチしたり、そこに仲違いしていた父親が助けに来たり、どこかで観たことのあるシーンがてんこ盛りだった。
今までそんなに意識したことのなかったアメリカ映画の公式に気づかされておもしろかった。そうそうずっとアメリカのフォークソングが流れている。
もちろんルノワールらしく、大勢の人の意図が絡み合い、主人公の思うようにはなかなか行かない。ヒーローもいない。主人公は集団に埋没している。ストレートにゴールを目指すこともない。そこがアメリカの公式に則っていても臭くならない理由に思える。
ルノワール作品コンスタントに観て行きたい。安心して見られて好き。
💓品薄作品でようやく観ることができました。