よしまる

白い恐怖のよしまるのレビュー・感想・評価

白い恐怖(1945年製作の映画)
3.7
 月に1本ヒッチコック作品のレビューを始めて早1年になります。主要作品だけでもまだまだ未見のもの、今一度観ておきたいものがあり、あと3年は戦える感じです(そんなにあったっけ?)

 今回はハリウッドに渡った初期の作品「白い恐怖」。50年代を黄金期とすると、40年代は凸凹期(個人の見解です)。
 この「#マンスリーヒッチコック」企画でも40年代作品を既に4本レビューしているのだけれど、評価の分かれるものが多く、完成度にもムラがあるような気がする。思うにセルズニックのスターシステムと自身の作家性の間で混乱が生じ、ましてや女好きの彼がバーグマンのような絶世の美女を前に正気でいられるわけがない(個人の見解です)。

 てことで、イングリッドバーグマンとグレゴリーペックというまるで絵に描いたような美男美女によるロマンチックコメディ…ではなくて、スリラー仕立ての映画。前半、ツンデレメガネ女医のバーグマンとイケメン記憶喪失男のペックによるやり取りはなかなか面白い。
 語り草となっているソーセージネタ。この場面のバーグマンの表情はほんとに凄くって、役柄としての表現と、女優としての恥じらいと、ひょっとしたら諦めのような感情までひっくるめてどこから観ても隙のない演技は驚嘆に値する。いや、ただの下ネタなんだけどさw

 そして物語が進むにつれてヒッチコックお得意のサスペンス描写へと踏み込んでいくのだけれど、今回は記憶喪失、精神障害の患者の深層心理を探り精神分析で科学的に解き明かすというミステリー要素を新たに取り入れており、これが戦時中に娯楽作として作られているのはさすがハリウッド。

 そのため、まともな精神病理学の探求と思ってみると大いに肩透かしを食らうし、フロイトやユングのような分析を期待するにしてもせいぜい夢占いレベルの推理でしかない。

 お話が物足りないとはいえ、お得意の不思議なカメラワーク(冒頭、いくつものドアを開けていく心理描写はお見事!)、白にまつわる小ネタの数々をオスカーの常連ミクロスロージャによるスコアが煽るのも素晴らしい。モノクロと思いきやパートカラーなのも衝撃。エ!と声に出てしまったよw
 ダリがデザインしたとクレジットされる夢の世界も画期的な演出だったに違いない。なにしろ当時はすべてセットを組んで撮影してるのだから。日本が国民総出で戦争やってた時にこんなの作ってたって、そりゃ勝てる気がしないわ。

 そしてやっぱりバーグマン。演技そのものはこの後の「汚名」や、別の監督の「ガス燈」がはるかに上だけれど、こんなお話でも飽きずに引き込まれるのは彼女の女優としての力量以外のなにでもない。

 「白い恐怖」なんていかにも上質のサスペンスみたいな邦題をつけるから調子が狂うわけで、原題の『Spellbound』には「魔法にかかった」「魅了された」「うっとりした」などの意味がある(wikiより引用)というタイトルそのままで臨めば、バーグマンファンならずとも充分に楽しめる娯楽作だと思うのだが。